この時季にしては、少し汗ばむくらいのよく晴れた昼下がり。たまにそよぐ風が心地よくて、ふと空を見上げれば、雲一つない青空が広がっていた。 「吉野、これで全部か?」 「うん、付き合ってくれてありがとう」 引き籠りの作業が長いせいか、たまの外出は気分転換になり、何より仕事抜きでトリと一緒にいられることが嬉しい。他愛ない話をして、くだらないことで笑いあって、それなりに充実した時間。 まぁ、相変わらず人混みは苦手だけれど、トリが一緒ならそれも平気。苦手意識よりも、嬉しさの方が勝るのだから不思議だ。 「そうだ!行きたいカフェがあるんだけど」 「あぁ、昼飯もまだだしな」 外観が可愛らしいその店は、以前偶然に見つけた場所で、時間が出来たら二人で来ようとずっと思っていた。 そのチャンスが、今日巡ってきたってわけだ。日曜だしもしかしたら混んでいるかもしれなくて、でもタイミングよく入れたらいいなと、ワクワクしながら歩く速度を早めた。 それなのに、どうしてだよ! 神様は意地悪だ────。 「あ……」 「仕方ないな、他の店にするか」 「えー何で今日?楽しみにしてたのにっ!あー、もうっ!」 ドアに貼られた臨時休業の文字に、傍目にも分かりやすく俺のテンションは急降下した。 この辺りでは一番美味しいというあるメニューが気になっていて、それで頭がいっぱいになっていたから、他の店なんて選択肢は端からない。 気落ちして口数の減った俺を、トリがどう思ったか分からないけれど、あーでも、大袈裟な奴だと呆れたかもしれない。 いくら眺めていても情況は変わらなくて、仕方なしにその場を離れる。結局トリが何かあるもので作ると言い出した為、大人しく帰ることにした。 * 「吉野、いい加減にしろ。臨時なんだから仕方ないだろ?」 「だってせっかく……」 「また今度行けばいい、もう諦めろ」 「うー……」 今日でなければ、意味がないのに。 いつまでも引きずり続ける俺に、トリは溜め息を吐くも、直ぐに何かを思い出したかの様に「ちょっと出てくる。すぐ戻るから待っていろ」なんて言って、出て行ってしまった。どこへ行ったかなど、見当もつかない。 つーか、今じゃなきゃダメなのかよ?ヘコみきった俺を一人にすんな。 暫くすると、何やら袋を提げて帰って来たトリが、キッチンに向かってフライパンを用意し始めた。 足りない食材でもあったのかもしれない。 「どこ行ってたんだよ」 「すまない、すぐ出来るから待っててくれ」 それにしてもたまたま行った今日が、臨時休業に当たる確率とはどれくらいだろう、と考えたら本当についてなかったとしか言いようがない。食べたかったな……。 トリの料理に不満があるわけではないけれど、寧ろ大好きなんだけど、今食べたいものはきっと出てこない。 ここまで拘るのには、一応俺なりの理由があって。出先の本屋でたまたま見た占いページ。 そこには今日のラッキーフードが書いてあり、パンケーキとなっていた。だから、前から気になっていてたあの店を思い出したのだ。 もちろん他の店にもパンケーキくらいあるんだろうけど、どうせ食べるのならそこのが良かった。 最終的には、変に固執した結果どちらも叶わなくて、今更後悔したってもう遅い。 |