世界一初恋 2

□幸せの味
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この時季にしては、少し汗ばむくらいのよく晴れた昼下がり。たまにそよぐ風が心地よくて、ふと空を見上げれば、雲一つない青空が広がっていた。

「吉野、これで全部か?」
「うん、付き合ってくれてありがとう」

引き籠りの作業が長いせいか、たまの外出は気分転換になり、何より仕事抜きでトリと一緒にいられることが嬉しい。他愛ない話をして、くだらないことで笑いあって、それなりに充実した時間。
まぁ、相変わらず人混みは苦手だけれど、トリが一緒ならそれも平気。苦手意識よりも、嬉しさの方が勝るのだから不思議だ。

「そうだ!行きたいカフェがあるんだけど」
「あぁ、昼飯もまだだしな」

外観が可愛らしいその店は、以前偶然に見つけた場所で、時間が出来たら二人で来ようとずっと思っていた。
そのチャンスが、今日巡ってきたってわけだ。日曜だしもしかしたら混んでいるかもしれなくて、でもタイミングよく入れたらいいなと、ワクワクしながら歩く速度を早めた。
それなのに、どうしてだよ!
神様は意地悪だ────。

「あ……」
「仕方ないな、他の店にするか」
「えー何で今日?楽しみにしてたのにっ!あー、もうっ!」

ドアに貼られた臨時休業の文字に、傍目にも分かりやすく俺のテンションは急降下した。
この辺りでは一番美味しいというあるメニューが気になっていて、それで頭がいっぱいになっていたから、他の店なんて選択肢は端からない。
気落ちして口数の減った俺を、トリがどう思ったか分からないけれど、あーでも、大袈裟な奴だと呆れたかもしれない。
いくら眺めていても情況は変わらなくて、仕方なしにその場を離れる。結局トリが何かあるもので作ると言い出した為、大人しく帰ることにした。





「吉野、いい加減にしろ。臨時なんだから仕方ないだろ?」
「だってせっかく……」
「また今度行けばいい、もう諦めろ」
「うー……」

今日でなければ、意味がないのに。
いつまでも引きずり続ける俺に、トリは溜め息を吐くも、直ぐに何かを思い出したかの様に「ちょっと出てくる。すぐ戻るから待っていろ」なんて言って、出て行ってしまった。どこへ行ったかなど、見当もつかない。
つーか、今じゃなきゃダメなのかよ?ヘコみきった俺を一人にすんな。

暫くすると、何やら袋を提げて帰って来たトリが、キッチンに向かってフライパンを用意し始めた。
足りない食材でもあったのかもしれない。

「どこ行ってたんだよ」
「すまない、すぐ出来るから待っててくれ」

それにしてもたまたま行った今日が、臨時休業に当たる確率とはどれくらいだろう、と考えたら本当についてなかったとしか言いようがない。食べたかったな……。
トリの料理に不満があるわけではないけれど、寧ろ大好きなんだけど、今食べたいものはきっと出てこない。
ここまで拘るのには、一応俺なりの理由があって。出先の本屋でたまたま見た占いページ。
そこには今日のラッキーフードが書いてあり、パンケーキとなっていた。だから、前から気になっていてたあの店を思い出したのだ。
もちろん他の店にもパンケーキくらいあるんだろうけど、どうせ食べるのならそこのが良かった。
最終的には、変に固執した結果どちらも叶わなくて、今更後悔したってもう遅い。

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