世界一初恋 2

□恋の副作用
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「駅前11時」
「え?」
「日曜デートの待ち合わせ」
「は、はいっ !!」

また暫しの沈黙。
好きな本の話なら普通に話せるのに、それ以外となると話が途絶えてしまう。律はガチガチに緊張しているし、俺がもっと自然に話せればいいのだけれど、そうもいかない。
帰り道、一緒にいられる時間は短すぎる。「じゃあ、俺はこっちなんで」と、離れていく律の背中にようやく掛けた言葉が、

「うち、寄ってかねーの?」

ほらまた。どうしてたった一言、一緒にいて欲しいって、言えないのだろう。
コイツのことを知りたくて、もっと一緒にいたいのに、どうしたらいい?

「嫌ならいいけど」

俺はバカか。そんなこと、思ってもいないくせに。
こんな感情は初めてだから、何か……いろいろと難しい。

「これ以上ムリですっ!」
「あ?」
「だから……今日は先輩とたくさん喋れて、デ、デートの約束も出来たんで嬉しくって。いっぱいいっぱいと言うか、これ以上一緒にいたらおかしくなるから…だから、だから……」

おかしくなるって、もう充分キョドってんだけど。やっぱコイツって変……でも同時に可愛く思えて堪らない。
まさかこんなに好きになるなんて、心境のあまりの変化に、自分でも驚く。
全てが初めてで、どう接したらいいのか分からず、余裕がないのは俺も同じだ。我ながら、本当にカッコ悪い。

結局、帰ろうとした律の腕を掴んで引っ張って歩くのが精一杯だった。部屋に呼んだって何を話したらいいのか分からないのに、それでも傍にいて欲しくて────。

「お邪魔します」

お行儀よく靴を揃えて脱いだ律に、部屋で待っているよう促して、俺はソラ太の姿を探した。名前を呼んだら足元に擦り寄ってきて、小さな体を抱き上げる。

「お前にも紹介するな、俺の好きな人」
「なー」

まるで返事をしたかのように聞こえて、頭を数回撫でてやりながら部屋に向かった。部屋に一人、律は突っ立ったままでそわそわと落ち着かない様子。

「何やってんの?座れば?」
「はい……ひゃっ、猫っ」

ソラ太が俺の腕からスルリと脱け出して、座った律の足元に擦り寄っていった。

「わわわ、あの俺、猫とか動物が苦手で」
「大丈夫、ソラ太は大人しいし引っ掻いたりしない。ほら撫でてみて」

目をぎゅっと瞑ったまま、律が恐る恐る手をソラ太の頭に乗せた。

「なー」
「わっ」

律は腰が退けているけれど、どうやらソラ太の方は気に入ってくれたらしくて、手をペロッと舐めていた。

「こっち向いて」
「先輩、ちょっと……近い、です」

すぐ目の前に律がいる。やっぱり胸が高鳴りドクドクとうるさくて、そんなことよりもキスをしたくなって、息がかかりそうな距離まで近付いた。

「キスしたいから口開けて」

薄く開かれたそれに吸い寄せられるように、唇を重ねる。伝わってくる熱と柔らかな感触とで、頭の中が真っ白になっていった。舌を吸い上げれば、律もそれに必死に応えようとしてくれているのが分かった。

「ふ……んん……はぁっ……」
「大丈夫?」

荒くなった息を漏らし俺の胸に頭をくっつけたまま、律は暫く動かなかった。上下する肩を包み込むように抱き締めたら、愛おしさが込み上げてきて、俺は無意識に呟いていた。

「律、好き」
「俺も……俺も、先輩が好きです」

そうか、何も難しく考えることないんだ。ただ自分の感情に正直になればいい、それを素直に伝えるだけ。

恋をするということは、胸が締め付けられたり急に切なくなったり、いろいろと厄介な感情に振り回されるけれど。
愛されるって、こんなにも幸せなことなんだ────。

日曜は昼飯食べてから古書店へ行って、それから、何処へ行こうか。きっとまた緊張して、上手く話せなくなるかもしれないけれど、せめてデートコースくらいは決めておかないと……そんなことを考えながら、もう一度キスをした。



END.

→あとがき。

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