「やだぁ、先生可愛い〜」 「何で猫なんだよ、俺もハロウィンっぽいのがいいっ!」 「いいじゃん、千秋すっごい似合ってるし」 「そうかな、優のドラキュラがカッコいいんだけどっ」 今日はハロウィン、クリスマスには及ばないものの、アシスタントの女の子達が持ち寄った衣装を身に纏いながら、盛り上がっていた。 仕事で缶詰め状態であったけれど、せめて雰囲気くらいは味わいたいということで、部屋の中をハロウィン色にして、自らも仮装したのだ。 俺、吉野千秋は女の子達が絶賛した猫の姿。手足には肉球つきのグローブを嵌めて、しっぽと猫耳カチューシャをつけている。 この猫耳が「萌えポイント」らしいが、俺にはよく分からない。どちらかと言えば男の俺ではなく、彼女達がやった方が可愛いと思うのだけど、なぜか決定事項だったみたいだ。 女の子達はそれぞれ、魔女やかぼちゃ、悪魔なんかの衣装でテンションを上げて、そして優はマントに牙をつけたドラキュラに扮している。 俺もああいうのが良かったと膨れれば、可愛いからこれでいいんだと言って優が頭を撫でてきた。 「ねぇ先生、羽鳥さんって今日来ないんですか?」 「顔出すって言ってたけど、何かあるの?」 「じゃじゃ〜ん、実は羽鳥さんの衣装も用意しちゃいました!でもまだ見ちゃダメですよ?来てからのお楽しみってことで」 「そうそう、絶対コレ似合いますよね。早く見た〜い」 ピッタリな衣装とはどんなものだろう?こんな展開になっているとも知らずに、ほぼ強制的に着る羽目になるトリが気の毒だけど。 きっと猫よりはましな筈だと思った。 とは言え、遊んでばかりもいられなくて、取り敢えずはそのままの格好で仕事に取りかかることにした。 一旦グローブは外して、代わりにペンを握る。ペン入れをしながらも、トリの為に用意された衣装が気になって仕方がない。 絶対似合う格好と言っていたが、さっぱり見当もつかなかった。そもそも仮装とは無縁な奴だから。 まぁそれもトリが来れば分かることで、今は少しでも作業を進めることが先決だ。 一応順調に作業は進み、キリの良いところで休憩を挟もうということになり、皆の分のコーヒーを淹れに行くと。 タイミング良くインターフォンが鳴り響いた。きっとトリに違いない。 「合鍵を忘れた、開けてくれ」 「ちょっと待って、すぐ開けるっ」 そのまま玄関に向かいかけたけれど、仕事中に外していた肉球グローブを取りに行き、しっかり嵌めてから急いで玄関に向かった。 そしてドアを勢いよく開けて、首を傾げながら可愛くグローブの手で手招きしてみせる。 「いらっしゃい、にゃん」 「……にゃ、ん?…………何だその格好は」 猫姿を見たトリは、訝しげな顔をして固まっていた。 状況が把握しきれていないだろうから「トリックオアトリート」と付け加えれば、「ああ、ハロウィンか」と納得がいったようで、差し入れだと思われるケーキの箱を差し出してきた。 「ちゃんと原稿は進めてるんだろうな?」 「バッチリだって!」 そのまま仕事部屋に連れて行き、仮装をしたアシスタント達が勢揃いしているのを見て、またトリは驚いた。 「何だか今日は賑やかだな」 「ハロウィンですからね、せめて雰囲気は味わわないと。羽鳥さんのもありますよ」 「は?」 すかさずアシスタントの一人がトリに声をかけ、例の衣装を差し出す。 「トリはこのあと会社に戻るの?」 「いや、もう戻らない。今日はここで終わりだ」 「やった、久々にまともな飯が食える〜!ならせっかくだし、お前も着替えろよ、な?」 有無を言わさず衣装を持たされて、トリは着替える為に渋々部屋を出た。そして着替え終わった姿を見て、女の子達が一斉に黄色い声をあげたのだった。 「羽鳥さん、素敵です」 「やっぱりこういうの似合いますねぇ」 「専属になって欲しいっ」 トリに用意されていたのは真っ黒なスーツ。普段からスーツを着ている為、一見何も変わらないようにも見えるが、明らかにそれは執事の姿だった。 女の子同様、密かにドキドキと顔を赤らめた俺に、優がすかさず突っ込んできた。 「千秋、何ボーッとしてんだよ。まさか執事にトキメいちゃったとか?」 「ば、ばかっ……そうじゃないって」 「そんなこと言って、先生顔真っ赤ですよ〜」 違うと否定したところで、からかわれるだけ。胸のドキドキは収まらずに、気まずいことこの上ない。 何とか皆の気を他に向けさせたくて、トリに話を振った。 |