最悪だ、トリなら俺の言いたいことを分かってくれると思っていたのに────。 勢いで部屋を飛び出したのは5分前のこと。頭に血がのぼったとは言え、さすがに酷い言い方をしたと一応は反省している。 『何でだよ』 『ダメだとは言っていない、詰め込みすぎだ。無駄な台詞は削れ、長すぎる。あと、このコマとそっちのコマ。これを無くし入れ替えて……』 『ここはどうしても必要なんだよ!無駄なものなんてない。絶対譲らねーからな』 『だったら…………』 『もういいよっ!』 作品を少しでも良くしたい、そう思うのはきっとトリも同じで、ありがたく思っている。 それなのにあんな言い方を……。 しかもこれだけでは言い足らず、過去の話を持ち出し避難めいたことまで投げつける始末。 最後の「大嫌い」は、さすがに堪えたらしく、悲しそうに顔を歪めて押し黙ってしまった。 でもあれは優のことを言われたからで、自分だって高屋敷と仲良さげなくせに。 俺からしたら売り言葉に買い言葉、本当に嫌いなわけじゃなく、寧ろ逆なのだから分かって欲しい。 「あー……どうすっかなぁ」 ひとりごちて、通りかかった公園のブランコに腰かけた。人こぎしてみれば冷たい空気が肌をさし、思わず首を竦める。 「寒っ」 後先考えずに飛び出したおかげで何も持ってこなかった。せめて、携帯でもあれば優と連絡取れたのに……いや、それじゃトリの思うつぼか。 喧嘩の原因半分がそれなのだから、些か分が悪い。 ただでさえ寒い時期なのに、今日は朝から曇り空で更に気温が低い。一応その辺にあった上着を羽織ってきたものの、薄着には違いなくて、吐く息も白かった。 どこか適当な店に入って寒さを凌いでもいいけれど、何となくここにとどまってしまったのは、昔のことを思い出したからだった。 小学生の頃家の近くの公園で、よくトリと一緒にブランコに乗ったっけ。どちらの方が高くこげるか競争したり、砂場で山を作ってトンネルを掘ってみたり。 喧嘩して公園に逃げ込んだこともあった。 って、全く成長してねーのな、俺。 自分の主張が通らず駄々を捏ねた子供と同じ、ただの我儘だ。 時間が経つにつれだいぶ冷静になったのはいいけれど、これからのことを考えれば、また違った意味で憂鬱になる。 そもそも、ネームに行き詰まり呼び出したのは俺の方なのだ。せっかく時間を割いてくれたのに無駄にした挙げ句、心ない言葉で傷つけてしまった。 あんな顔をさせたかったわけじゃないのに。 そう言えば、あいつ何か言おうとしてしていたような気がする。もしかしたら譲歩しようとしてくれたのかもしれない。が、それも今更な話だ。 自分の部屋に帰ればいいだけの話なのに、万が一トリが待っているとしたら……なんて考えたら足が動かなかった。 行くあてなんてない。それでも、ずっとここにいるわけにもいかなくて、取り敢えず移動しようと立ち上がれば、ポツリポツリと雨が降り出した。その雨もあっと言う間に大粒になり、激しいものへと変わっていった。 風がないのはせめてもの救い。 「スゲー雨っ……すぐやむかなぁ」 仕方なく、少し離れた場所にあった滑り台めがけて走った。こ の滑り台は下がトンネル状になっていて、人が入れそうな空間がある。何とか雨は凌げそうだ。 すぐに止む気配もなく、仕方なしにそこへ身を屈めて潜り込む。 「早くやめよ……」 雨に濡れたせいで更に身体が冷える。膝を抱えて顔をうずめ、ここで雨がやむのを待つことにした。 こんな天気だから、辺りは人通りもなく激しい雨音しか聞こえない。こんなことになるのなら、意地を張らずにすぐ帰れば良かった。 どれくらいこうしていたのだろう。確認出来るものがないので、正確な時間は分からないが、結構な時間が過ぎた気がする。 暫くして、トリの顔を思い浮かべた時。頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。 「吉野……、こんな所にいたのか」 「わ、トリッ!」 見上げるとそこには、息を上げながら傘をさしたトリの姿があった。探してくれていたことに驚いて、慌てて立ち上がろうと腰を上げた為、低すぎる天井に頭を強打してしまった。 |