世界一初恋 2

□想い出の共有
1ページ/3ページ


最悪だ、トリなら俺の言いたいことを分かってくれると思っていたのに────。

勢いで部屋を飛び出したのは5分前のこと。頭に血がのぼったとは言え、さすがに酷い言い方をしたと一応は反省している。

『何でだよ』
『ダメだとは言っていない、詰め込みすぎだ。無駄な台詞は削れ、長すぎる。あと、このコマとそっちのコマ。これを無くし入れ替えて……』
『ここはどうしても必要なんだよ!無駄なものなんてない。絶対譲らねーからな』
『だったら…………』
『もういいよっ!』

作品を少しでも良くしたい、そう思うのはきっとトリも同じで、ありがたく思っている。
それなのにあんな言い方を……。
しかもこれだけでは言い足らず、過去の話を持ち出し避難めいたことまで投げつける始末。
最後の「大嫌い」は、さすがに堪えたらしく、悲しそうに顔を歪めて押し黙ってしまった。
でもあれは優のことを言われたからで、自分だって高屋敷と仲良さげなくせに。
俺からしたら売り言葉に買い言葉、本当に嫌いなわけじゃなく、寧ろ逆なのだから分かって欲しい。

「あー……どうすっかなぁ」

ひとりごちて、通りかかった公園のブランコに腰かけた。人こぎしてみれば冷たい空気が肌をさし、思わず首を竦める。

「寒っ」

後先考えずに飛び出したおかげで何も持ってこなかった。せめて、携帯でもあれば優と連絡取れたのに……いや、それじゃトリの思うつぼか。
喧嘩の原因半分がそれなのだから、些か分が悪い。
ただでさえ寒い時期なのに、今日は朝から曇り空で更に気温が低い。一応その辺にあった上着を羽織ってきたものの、薄着には違いなくて、吐く息も白かった。
どこか適当な店に入って寒さを凌いでもいいけれど、何となくここにとどまってしまったのは、昔のことを思い出したからだった。
小学生の頃家の近くの公園で、よくトリと一緒にブランコに乗ったっけ。どちらの方が高くこげるか競争したり、砂場で山を作ってトンネルを掘ってみたり。
喧嘩して公園に逃げ込んだこともあった。
って、全く成長してねーのな、俺。
自分の主張が通らず駄々を捏ねた子供と同じ、ただの我儘だ。

時間が経つにつれだいぶ冷静になったのはいいけれど、これからのことを考えれば、また違った意味で憂鬱になる。
そもそも、ネームに行き詰まり呼び出したのは俺の方なのだ。せっかく時間を割いてくれたのに無駄にした挙げ句、心ない言葉で傷つけてしまった。
あんな顔をさせたかったわけじゃないのに。

そう言えば、あいつ何か言おうとしてしていたような気がする。もしかしたら譲歩しようとしてくれたのかもしれない。が、それも今更な話だ。
自分の部屋に帰ればいいだけの話なのに、万が一トリが待っているとしたら……なんて考えたら足が動かなかった。
行くあてなんてない。それでも、ずっとここにいるわけにもいかなくて、取り敢えず移動しようと立ち上がれば、ポツリポツリと雨が降り出した。その雨もあっと言う間に大粒になり、激しいものへと変わっていった。
風がないのはせめてもの救い。

「スゲー雨っ……すぐやむかなぁ」

仕方なく、少し離れた場所にあった滑り台めがけて走った。こ の滑り台は下がトンネル状になっていて、人が入れそうな空間がある。何とか雨は凌げそうだ。
すぐに止む気配もなく、仕方なしにそこへ身を屈めて潜り込む。

「早くやめよ……」

雨に濡れたせいで更に身体が冷える。膝を抱えて顔をうずめ、ここで雨がやむのを待つことにした。
こんな天気だから、辺りは人通りもなく激しい雨音しか聞こえない。こんなことになるのなら、意地を張らずにすぐ帰れば良かった。

どれくらいこうしていたのだろう。確認出来るものがないので、正確な時間は分からないが、結構な時間が過ぎた気がする。
暫くして、トリの顔を思い浮かべた時。頭上から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「吉野……、こんな所にいたのか」
「わ、トリッ!」

見上げるとそこには、息を上げながら傘をさしたトリの姿があった。探してくれていたことに驚いて、慌てて立ち上がろうと腰を上げた為、低すぎる天井に頭を強打してしまった。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ