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今回は雪木佐♪





【彼のにおい】

仕事終わり、時計の針は21時30分を指している。もっとかかると思っていたけれど、案外早く終わらせることが出来た。こんな日は雪名に逢いたい。終わりが見えなかったので、約束はしてなくて。
別にまだ仕事だったとしても、お互い部屋の合鍵は持っているから、それを使って待っていればいいだけのこと。
何となく気が引けて、実際はまだ使ったことがないんだけれど。それでも。今日は無性にあいつの顔が見たくて堪らない。ポケットの中で鍵をキュッと握り締め、俺は雪名の部屋に向かった。

やっぱり部屋の電気がついていない。ここに辿り着く頃にはちょうど戻ってくるのではないかとも思ったが、どうやら本当に鍵を使うことになりそうだ。
部屋の前まで来ると、変に緊張した。初めて入るわけでもないのに、自分で鍵を開けたせいか、いつもよりドキドキする。


「お邪魔します」


もちろん返事がないのは分かっていたが、一応一言断って。
久々の雪名の部屋……本棚には俺の担当コミックがズラリと並び、スケッチブックの数が前来た時よりも増えていた。
実を言えば、まだちゃんと雪名の絵を見たことがない。綺麗に並べられたスケッチブックを1冊手に取り、パラパラとページをめくってみた。
ほとんどがデッサンばかりで、色は付いていなかった。数冊見てみたけれど、内容はどれも似たような感じ。
俺が見たところで、正直絵のことはよく分からないし、雪名とそれについて話したこともあまりない。
けれど、好きな相手が興味ある物を理解したい気持ちはある。今度時間が取れたら、2人で美術館にでも行ってみようか?
元あった場所に戻しながら、何となく一番最後に並べられたスケッチブックを手にした。どうやらこれは未使用なようで、ページをめくっても何も描かれていない。パラパラ紙をおくりながら、閉じようと思った時。最後の数ページに何か描かれていた。
人物画?気になって開いてみれば。


「…………俺?」


そこには数枚、笑っている俺が描かれていた。
あいつ、いつの間にっ!
急に恥ずかしくなり、そっと元に戻しながら1人赤面する。時刻は22時30分になろうとしていた。
やっぱり連絡を入れておこう。そう思い、バッグの中から携帯を取り出した。

『どこにいる?今、雪名の』

ここまで文字を打った所で、壁に掛けられたハンガーが視界に入った。いつもバイト時に着ている白いシャツ。気が付けば、それを手に取り抱き締めていた。
あー雪名のにおい……まるで抱き締められているような感覚に陥り、心が落ち着く。
早く帰って来い、バカ雪名──。





心地よい熱、大好きなにおい……何かが頬を撫でる感触。


「ん…………っ」


ぼんやりと白い視界が徐々に色付いて、形どられていく。


「ゆ……きな……?」

「すみません、起こしちゃいました?」


ああ、そうだ。雪名の部屋に合鍵で入ったんだった。いつの間にか眠ってしまったらしい。徐々に頭が覚醒していく。雪名に連絡を入れようとして…………


「うわー!! や、違うっ!俺は…………」


今自分がどんな状況なのかを思い出して、慌てて飛び起きた。雪名のシャツを抱き締めながら眠るとか、ただの変態じゃねーかっ!


「ご、ご、ご、ごめん。これはその…………雪名のにおいがしてつい…………気持ち悪いよな、ホントごめん」


すっかり皺がついてしまったシャツをのばしながら弁解をするも、恥ずかしすぎて雪名を見ることが出来ない。


「来るなら言ってくれれば良かったのに。今度また木佐さん担当の本が出るでしょう?その時のポップとか作ってたんで遅くなったんです」

「そうなんだ……ありがと」


って、何お礼とか呑気に言ってんだ俺。そうじゃねーだろ!


「あの、雪名……」

「帰ったらビックリしましたよ。下から電気ついてるのが見えて、木佐さんが来てるんだと思って走ってきたら、俺のシャツ抱き締めながら寝てるじゃないですか。もう何のご褒美なんだって思っちゃいましたよ!でもあまりにも気持ちよさそうに寝てるから、そのまま寝かせておいてあげようって思ったのに、我慢できなくて触れちゃいました」


一方的に喋る雪名は興奮気味で、頬を紅潮させながら笑っていた。


「それに俺のにおいって、木佐さん……」

「だからそれは……」


顔を上げた瞬間、雪名は俺の身体を力いっぱい抱き寄せた。


「こうゆうことですよね?こっちの方が良くないですか?」


大きな胸に抱き留められて、心拍数が上がり始める。密着しているから、雪名の音もハッキリと聞こえた。
そうか、俺はこんなふうに抱き締めて欲しかったんだ。


「雪名のにおい、落ち着く……」

「ああ、もうっ!木佐さんマジ天使っ!可愛すぎます!!」


たまには、こうやって甘えるのも悪くない…………のかも。
雪名の手が頭に添えられて、顔が近付いたかと思うと唇が重なった。じわじわと伝わる熱が、思考を溶かし始める。


「ねぇ木佐さん、今日は泊まって行きますよね?これ着てもらっていいんで」


そう言って雪名が差し出したのは、さっきまで俺が抱き締めていたシャツだった。


「よりによってコレかよ」


一瞬忘れかけていたのに、また自分の行いを思い返して羞恥に襲われた。


「彼シャツ堪んないっス。想像しただけでイケ…………痛っ!」


勝手に1人で盛り上がる雪名の頭を思いっきりはたいてやって、「バカ想像すんな、恥ずかしいっ!!」と言えば、更に嬉しそうに抱き締めてくる。


「着てくれないんですか?」


寂しそうにそう呟いた雪名は、それが効果的なのを知っている。こんな時だけ年下ぶるなんてズルイとか思ってしまうけれど、素直に甘えてくる雪名が可愛くてしかたない。


「別に……着てやってもいいけど……」


再び大好きなにおいに包まれながら、俺は雪名に身体を預けた。


END.


20150430 蓮。






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