真田一馬







「かずまーかずまー」
「…なんだよ」



「…できちゃった」
「なにが?」
「赤ちゃん?」
「…」





「はぁ!?」






二人掛けのソファに座ってテレビを見ていた時の突然の一言に俺は固まった


あ、かちゃんって…こ、ここここども?
こいつの?

一言で頭が真っ白になった俺はとりあえず状況把握をする
目の前の爆弾発言をした相手の肩を掴んだ


「とりあえず聞くけど…だ、誰の?」
「わたしの?」


そうだよな、こいつが言ったんだ他の奴の話じゃねーよな
この後が肝心だ


「…だ、誰との?」
「いや、一馬以外に誰がいるのよ」
「だ、だよな」


うん、そうだ
こいつは俺の彼女だ、俺以外にだれがいる

と、いうことは俺のこどもだってことだよな…?


俺、父親…?



唐突な報告と、唐突に自分が誰かの親になったことにしばし放心する
なんて言ったらいいか分からないが心が温かくなる感じがする
あ、俺喜んでるのか

とりあえず、言葉にできないくらい嬉しい…のかも



「なーんてね!」


俺が放心している間に力が抜けたのかそんな掛け声と共に彼女は立ち上がった
そして俺の目の前に立つ


「え、」
「今の嘘!本当は妊娠なんかしてないよ!本気にした?」
「…はあ?」


にっこり笑った顔に自分が嵌められたのだと気付く
なんだそれ、俺の今の喜びを返せ!


「なんだよ…」
「ふふ、ごめんねー」


そう言いながら俺の足の間に腰かけて体重をあずけてくる
甘えるときの彼女の癖だ
そんなんで俺の機嫌をとれると思うなよ

それにしても、俺結構なダメージを受けてるんだな
よほどこどもできたことがうれしかったのか…


「はあ、」
「もー溜息つきすぎ。そんなに残念だった?」
「あー…まあな、結構嬉しかったな」
「え…」


俺の呟きに彼女は振り返り俺を見上げた
なんだか心底驚いた顔をしている


「なんだよ」
「嬉し、かったの?」
「そりゃそうだろ、俺とお前の子供だろ?」
「本当?」


失礼な奴だな、俺は子供嫌いじゃねーぞ(そこじゃねーって?)
それに俺はお前と…!

…そうか、俺の残念だと思っている根はこれだったのか


「本当も何も、嘘ついたってしょうがないだろ」
「そう…だよね」


彼女はそう呟くと急に黙り俯く
そんな彼女を不思議に思い視線を下に移すが表情は読み取れない
俺の服の裾をしっかり握りしめている右手だけが唯一視界に入る

え、俺何か悪いこと言った?
何か不安にでもさせたか?


「あー…あのさ、」
「…」
「俺はさっきのことすごい嬉しかったんだよな…そんで、嘘だって言われてかなりがっかりしたの。なんでか考えたらそれはきっとお前と結婚したかったんだなー…って思った。」


目の前の愛しい体を抱きしめる
一言も漏らさず伝えたくて直接耳元に口を近づけた


「今はお金もないし頼りないしきっかけもないけど、いつか絶対に結婚してほしい」


恥ずかしさでいっぱいだ
今この腕を解いたら絶対に真っ赤な顔を相手に見られることになる
…それだけは避けたい

そう思った俺はさらに腕の力を強める…が


「ごめん、一馬」
「へ?」


俺、断られた?
おいおい、彼女にプロポーズ(もどき)断られるって…

そして一気に力の抜ける腕を解き、俺の胸を押し、間に距離を作る
一気に血の気が引いていく音がした
そんなに嫌われたのか、俺…


「あのね、一馬…」


嫌な空気の中で彼女が口を開いた


「さっきの嘘、嘘なんだ」

「…」


んん?どういうことだ?
嘘が嘘ってことは…本当?何が?

しかし、俺が正解に至る前に彼女が顔をあげた
そこには満面の笑顔


「あのね、できちゃった!」

「…はぁ!?」


なんというデジャヴ…俺は本日3度目の奇声を上げた
ていうか、本当に子供できてたのかよ!


「ほら、きっかけできたよ!結婚しよう!」
「えぇぇぇ!?」
「いやなの?」
「いや、それはない…けど、っていうかちょっと待て、お前なんでいちいち嘘なんかつくんだよ、俺のことからかったのか?」


混乱する頭を抱えて必死に整理しながら話す、すると突然彼女の動きが止まった


「…?」
「いや、からかうっていうか…」
「っ!」
「…っ、ごめ…」


俺を見つめる目からはいつの間にか涙がこぼれおちていた
少し驚いたが、拭おうとする手を掴んでやめさせる


「こすったら赤くなる…俺、なんかしたか?」
「ちが…ただ…」


こいつはきっと何かを不安に感じているのかもしれない
俺、年下だし頼りないから隠したくなったのかもしれないけど、父親になるのに奥さん不安にさせるなんて情けない

背中を撫でながら彼女が話し出すのを待つ


「ただ…最初に言った時の、沈黙が…面倒くさいとおも、われた、と思って…勝手に、不安になった…だけ」
「…」


あの時か…確か俺自分の幸せ噛みしめてた気がする


「ごめ、なんか勝手に…かん、ちがい」
「いや、俺が悪かった、俺もすぐ反応しなかったし」


目の前の小さな体を抱きしめた
今度こそ


「あのさ、」
「うん」


「俺、お前より年下だし頼りないかもしれないけど絶対にお前とそのお腹の子、2人は守る…から、俺を父親に…お前の夫にして、ほしい」


「やだ」


えー…また否定のお言葉ですか
そろそろ俺立ち直れなくなるんですけど

思わず抱きしめる力を緩めて彼女の顔を覗き込む
そこにはにっこり笑顔…どこか怖い


「私ね、子供は4人ほしいの、だからあと3人足して5人、ちゃんと守ってくれるなら夫にしてあげてもいいよ」
「…」


しばし呆気にとられるが、どちらからともなく笑いがもれた
ああ、なんだか今から幸せな気分
こんな幸せな場所なら





「当たり前だろ、絶対に守ってやるよ」





お前ら全員しっかり守るよ












(ちょっと頼りないお父さんですけど)
(一言よけいだ!)
(こわいお父さんでちゅねー)
(…っ!)














ありがとうございました!

戻る際はブラウザバックかこちらから





感想、意見何でもどうぞ



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ