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□溺夜
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『…つかれた…。』













ギルド、凛々の明星の一員であるユーリ・ローウェルは、久しぶりの休暇を明日に控えてベッドに横たわる。








『…ねみー…、けどフロ…』












ここ1ヶ月の疲れが重なって、眠気が思考を遮る。
あと1分したら、とか、
あと5分したら、などと考えているうちに、刻々と時間が過ぎて行く。

































『……ゆーり…?』



















久しぶりに下町に帰ってきていると聞き、高鳴る胸を押さえつつ急いで仕事を切り上げてきたというのに。




『…疲れてるんだね』






普段の彼からは想像も出来ないような、安心しきった寝顔。
触れたら消えてしまいそうな、細く華奢な躰。







ちゃんとご飯食べてる?




さいきん眠れてる?




いま、楽しい?




…僕のこと、思い出してる?











心地よく寝息をたてている君は
間違いなく1人の人間で。




優しく一定音を刻む胸は
日溜まりよりも暖かいのを知っている。
















『……帰るか…』











せっかく来たけど、ユーリが寝てるんじゃな。

今はゆっくり寝かせてやろう。


そんなことを考えながらベッドから腰を上げると、いきなり視界が揺らぎ、そのままベッドへ倒れこんだ。






『あ…?な、なに…?』





驚きで思考が上手く働かない。
横を見ると、更に上回る驚きで体が硬直する。





『よ、ふれん…』





『え、あ…?ゆ、ユーリ…?』






近い。






今にも唇と唇がくっつきそうな距離で、深夜の色を帯びた大きな瞳が、僕を捉えて離さない。









『…かえるな。』







『…え?』








『いっしょに、ねろ』









本当に眠いらしく、舌っ足らずな言葉ばかりが発せられる。
普段の様子からは想像できないユーリに、ちょっとだけ可愛いなとか思ってしまったりする。






『ふれん。ふれん…。』





伸ばされた左腕を払えるわけもなく。


いつの間にか、ユーリの大きな腕の中にすっぽり収まっていた。







ユーリが少しだけ微笑んだような気がした。

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