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□君がそれに気づくまで 5
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『ユーリ、そっち危ないよ』
『あ、ああ。』
歩道を歩いていると、フレンにたち位置を交換される。
フレンが道路側を歩き、まるで車から子供を守る母親のようだ。
暫くそのまま、何気ない話を交わしていた。
いや、沈黙が嫌で、俺からずっと喋り続けていた、の方が妥当かも。
『今日の体育なんてアシェットがさぁ…』
『アシェット??』
今まで頷くしかしていなかったフレンが、アシェットと名前を出しただけで反応し、若干驚く。
『そ、そうだけど…、なんかした??』
『いや、別に…。続けて。』
おかしな奴だな、と思いつつ、話しを続ける。
『ね、ユーリ』
『ん??』
『もしかして…付き合ってるのかい??…アシェットと。』
頭から、手足から、地面に向かって一気に血の気が抜けて行く。
『今日の朝も、アシェットと登校したんだろ??』
『は??…っ、ちが…』
『隠さなくていいよ。ユーリももう高2だもんね。好きな人がいて当然だ。…明日から僕の家には来なくてもいいし、僕からも行かない。』
後ろで燃える夕日が眩しすぎて、フレンの表情が読み取れない。
見えない。見えないよフレン。
どうしてこうなるんだ。
なんで涙が出るんだ。
『ただいま…』
木製のドアを開けると、奥のリビングから飼い犬のラピードが走ってくる。
『ワウッ』
『ただいまラピード。いい子にしてたかー??』
頭をわしゃわしゃと撫でてやると、嬉しそうに俺の足に飛び付いてくる。
『あとでご飯な、ラピード』
『ガウッ!!』
飛びきり大きな声を確認したあと、自室がある二階へ階段をかけ上る。
『ふう…』
なんか今日は色々あったな。
ぼんやり考えながら、とりあえずうつ伏せにベッドに寝転ぶ。
「「明日からは家に来なくてもいいし、僕からも行かない」」
ずっと頭の中で反響している。
結局、なにも言えないまま別れて、今に至る。
ふと、床に放り出していたバッグが目に止まった。
もともと、バッグの中がゴチャゴチャしているのは嫌いなため、目的のものは簡単に見付かった。
『ーあった。えーと、フレン…。はひふ、ふ…』
出したのは携帯電話。
高校入学時に、ハンクスじいさんから入学祝いとして貰ったものだ。
薄い桃色をしていて、特にキーホルダーはつけていない。
『あった、フレン。』
メモリは見つけた。
あとは左上のコールボタンをかけるだけ。
震える親指を斜めに持っていく。
お願い。
出て。
カチッ、という心地いい発信音のあと、コールが始まる。
プルルルルル
プルルルルル
プルルルルル
出ないか…?
プルッ
『ふ、フレン…?』