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□君がそれに気づくまで 7
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それからは、フレンとは全く話もしなくなった。




たまに目が合う時があるが、すぐにそらされて終わる。




廊下でばったり会っても、笑顔を向けてはくれなくなった。




ただ時間だけが過ぎてゆき、いつの間にか初夏を迎えていた。

青葉が太陽に照らされて、きらきらと輝く頃。
それと同時に、不安定な梅雨の時期でもある。

















『うっわ、マジかよ…』













昇降口から空を覗くと、大粒の雨がばらばらと落ちてきていた。





『はやく帰ってラピードに餌やんねーとダメなのに…』






きっとお腹を空かせているだろう、近いから思い切って走るか、なんて考えていた時だった。







『…ユーリ』



















懐かしい、忘れもしない声。





低く、透き通って少し甘さを含んだ声音。











『傘、無いんだったら…。一緒に入る??』




























『肩、濡れない?』




『ん、…大丈夫。』












濡れたアスファルトの下り坂を、青色の傘が揺れている。

今にも肩と肩がぶつかってしまいそうな息が詰まる程の距離で、俺は静かに今の状況を整理していた。










今の今まで無視を決め込んできたフレン。
もう元の関係には戻れない、そう思っていた。




今、俺の隣にフレンが居るってだけで、緊張やら嬉しさやらで頭がイかれてしまいそうだ。




…どうか、まだ止まないで。















家に着くまでの間、口数こそ少なかったが、なんとか話は交わせる状態だった。

なんか久しぶりだ、とか、
髪伸びたな、とか。








『あ、着いた』




『…』





気付いたら家の門の手前まで来ていた。
あと数歩歩けば、フレンとはまたさようならだ。




『じゃあなフレン。助かった』



『あ、ああ…』




『風邪、引かないようにな』









まだ雨が降り続ける傘の外に出る。
門を開け、扉を開けば、







開けば…





























『…ふれ…っ、ん…』





















『……っ』























背中に熱を感じる。









左耳に吐息を感じる。









ドキンドキンと波打つ心音が、背中からシャツ越しに伝わってくる。










水溜まりに落ちた青色の傘。




首もとに回された男らしい腕。








それが視界に入ってから、俺はようやく後ろから抱き締められていることに気がついた。













『…フレン??ちょ…』












『あ、…ごっ、ごめ…!!』

















不意に力を抜かれ、フレンが後ずさるのを背中で感じる。


振り向くと、そこには顔を真っ赤に染めたフレンがいた。










『…、ま、また明日!!…じゃ!!』






『あ、ああ。また明日…』



















気付くと、足元に青色の傘が転がっていた。






『忘れていきやがった…』

















ゆっくりと扉を開け、中に入る。
…背中と首もとにまだ熱を感じる。





あんなに温かかったんだ。



あんなに力強かったんだ。









…あいつ、男だったんだ。



















『ふ、れ…!!フレン…!!』












両肩を力いっぱい握りしめ、ずるずるとドアからずり落ちる。
頬を生暖かいものが滑り落ちた。






『うっ、うぅ〜!!』








涙で視界が淀む。





鼻の頭が痛い。





目が熱い。





苦しい。苦しい。








やっと気付いた。



























フレンが好きなんだ。

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