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□【心に秘めるは】
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「次に来る時までくたばんじゃねぇぞ」
「さて、もう歳だからのう。わしがこの世から消えるのが早いか、お前さんが芸能界から消えるのが早いか……」
「うるせぇよ、くそじじいっ!いくつまで生きる気だっつーの」
「キリがいいところで200才くらいかのう?」
「もうボケたか?」

いつもの冗談混じりの悪態のつき合いの後、車に乗り込む。

「じゃあ、もう行くけど……本当に体には気をつけろよ?」
車の窓を開け、そう言った俺に、
「ありがとね、あんたも無理しないでな。またいつでも来なさい」
とばあちゃんは微笑む。

「なんならゆかりさんだけで来てもいいんだぞ?」
じいちゃんの減らず口に、ゆかりは、
「本当にお世話になりました。また遊びに来たいです。ありがとうございました」
なんて真面目に答えている。

一通り挨拶を済ますと、名残惜しい気持ちを振り切ってアクセルを踏んだ。

――何度経験しても慣れねぇな……。

共に過ごした時間が楽しいほど、別れは辛くなる。
昨晩、酔って寝てしまったじいちゃんを抱え上げた時、思ったよりもずっと軽かったことを不意に思い出し、ずきっと胸が痛んだ。

「隼人、2人ともまだ見送ってくれてるよ」
そう言って、体を反転させ手を振るゆかりに、
「危ねぇからちゃんと座ってろ」
と注意する。

お互いの姿が見えなくなると、やっと前を向いて座った。

「2人ともいい人だったね。隼人と仲良くてびっくりしたよ」
そんなゆかりの楽しそうな声を聞きながら、俺は数年前の出来事を思い出していた。
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