お題にTRY!スレイヤーズ二次創作小説

□01 友よ、始まりをおそるることなかれ
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あれは何時の話だっただろうか。
たしか、今日と同じく素晴らしい天気の一日だった。





あの日も、今日も。

この店から見える景色は長い事変わらない。

遠巻きに見える街道を行きかう旅人に馬車、そして商人達。
メイン街道からは少し外れ、小道を入ってゆかねば見えない赤茶けた屋根。
飲食店ならではの胃をくすぐる香りに導かれてゆくと、
座る気には到底なれない椅子と、その上に無造作に置かれた
木の看板が客人を迎える。

食堂、と呼ぶには軽食ばかりを出す店だったが、
暇を持て余す者には、居心地の良い場所である。


本来、ワインを注ぐべきグラスに
安物の醸造酒を放りこむように注ぎながら、

あの日、俺は隣に腰かける相手の話を待っていた。






相手___、釣り竿男の帰還は予定よりずいぶん早いものだった。

・・・おおかた、思い描いていた様な心躍る旅では無かったのだろう。

元は傭兵とは言え、今は一つの家に根を下ろした商売人。
あくせく手を広げる様な商売の仕方では無いとは言え、
店を持つ身はそれなりに忙しい。
仕入れだ品出しだ配達だ、と否応にも習慣づいた身体に、
無理やり休暇を与えた所で、素直に一息つけるかと言えば
・・・その実難しかったりもする。

口はお世辞にも良くはなく、ひねくれた所もある友人だが。
仕事好きで愛妻家なこの男、
旅先でそれを思い知らされたのかもしれない訳で。

何も語らずに酒をあおり続ける整った横顔を笑いを噛み殺しながら見ていると、
悔しそうな色を含んだ声と共に、奴はこちらを向いた。

勘違いするなよ、だの
なに勝手に想像して笑ってやがる、だのと言いながらも、
上等な土産話を隠しているのか
その表情はどこか満足気でもある。


「勿体ぶるなよ。何か面白い事でも
巻き起こしてきた様な顔つきじゃねえか」

「何で俺が当事者確定なんだよ」

軽く睨み上げながら、奴は笑う。


仕事をするにはもう遅く。
女房に捕まりに帰るにはまだ早い。

酒のつまみが盛られた皿を指先でつまみ、奴の目前に置く。
「お前もヒマだな」、の言葉はそのまま、長い土産話の始まりになった。
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