お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□08 あなたまでの距離
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どれほど沈黙が続いた後だろう。



「人を想う事と・・・優しさと。
 ・・・苦しさを教えてくれる、
 貴方が・・・私の師匠なんです」


そう、静かに、きっぱりと言う、
自称弟子の姿がそこにはあった。

穏やかでありながら、よく響く声。

告げられた方の少年は、まだ何も言葉に出来ない。


努力は今改めて、師と慕い続けてきた
目前の存在に、燃えるその瞳を向けた。


「一言で良い・・・師匠の言葉が欲しいんです。

 守りたいと想う事を・・・耐えないで良い、と。

 ただ、それだけ、本心から許して頂きたい。
 師匠にお聞きしたいのは、それだけです」


ずるい抜け道探しのど真ん中で。
宇宙で一番暑苦しい弟子が、どかっ!と
なりふり構わず座り込んでいた。








『あなたまでの距離』









自分には出来ない真剣さで問いかけて来るその姿。

その彼の勇気に、まるで磁石の様に、
洋一の隠れていた勇気が
引きよせられてゆきそうになる。

無視する事も、止める事も、
・・・もう限界に近い。

でも。それでも・・・
師匠として切るべきカードを、放り投げる訳にはいかなかった。


「守る相手は・・・」


ようやく声を絞り出した洋一に、
努力は息を吐くのも忘れ、固まった。


「選ばないとダメだろ、努力マン」


わざとらしく、ヒーロー時の呼び名で告げられた言葉。


「ボクの事は、他の皆が守ってくれるさ。
 おつきマンだろ、それに・・・
 努力は顔知らない、変なおっさんもいるし。

 それに、さ。
 努力がわざわざ遠くに行かなくたって・・・
 ボクの方が、地球を離れるかもしれないじゃん」


あえて軽い口調で、確率の低くは無い可能性を伝えるものの。
努力はやはり冷静を貫けず、抱きとめていた洋一の
両肩に手を置き、ぐっ!と引き剥がして。

洋一の顔を覗き込み、その表情につられたのか・・・、
口元を歪ませ、目尻から一筋の涙を流した。


「・・・なら、なおのこと・・・。
 やはり師匠の隣は、誰にも譲りたくありません。

 先ほどの答えとしても、まだ。納得してませんからね」


涙をこらえ、懸命にポーカーフェイスを続けようとする
洋一だったが。


「一緒にいたい」、と言う本心を隠す事はもう不可能だった。

そんな気は無い、と突き放してやる事も、
慕ってくれた彼に出来る、唯一の事さえ、
自分にはしてやれないのだろうか。

それが証拠に、答えとして認めない、と言った努力の表情が
泣きたくなる程に優しく、穏やかだった。

こんなしがみついたまま、ベソかいていちゃ本心も
隠せっこ無いのにな、と。
洋一はまた視界が歪んで、顔を下へ向けた。


「免許皆伝くらい・・・受け取ってくれるだろ?」


消え入りそうなその声に、努力はただ、首を横に振る。

目前の玉ねぎ頭の少年と、目立ちたがり屋の少年が
自分にどれだけ多くの心を与えてくれたのか。
それを、地球人の二人だけが分かっていない。

免許皆伝を貰い、他星に迎え入れられて。
地球での、この日々を。
多く重ねてきた、「修行」の中の一つに______

もう、カウント出来はしないと言うのに。



「・・・さっきも言ったけどさ。
 ボク男。お前も男。
 ボクが好きなのは、みっちゃんなの」


「・・・わかっていますよ」


「友達・・・じゃダメか?」


「・・・師匠の中でだけ、そう想って頂く事だけならば、
 私はそれで充分です。
 ・・・・・・
 そばにいるのを禁じられるよりは、ずっと・・・
 頷く事も出来るでしょう」


思わず見上げる洋一の瞳に、
あまりに苦しげな、努力の顔が映った。

嘘のつけない師匠の弟子もやはり、嘘は苦手らしい。

そんな努力に、洋一は眉をへにゃ、と下げて。
そのまま、その胸板へ観念したように頭をあずけた。



「・・・ずっと。好きだった、みっちゃんが・・・」


当の本人がその場にいない、小さく呟かれた告白。


「・・・出来ることなら、みっちゃんを
 想ってた事、忘れないでいたい。
 結果じゃなくて、さ。

 ・・・っうか、どうしたって忘れられる訳が無い」


そこまでか、と内心穏やかでないものを感じながらも。
努力はそれを顔に出すことなく、
無言で洋一の言葉の続きを待つ。


「ボクの不運に巻き込まれて
 ひどい目に合うクラスメートなんてさ、 
 そんな子達なんて・・・
 
 お前に出会う前から、本当にいっぱいいた。

 ・・・そんなの日常茶飯事だよ。
 それこそ、覚えちゃらんない位に」


でもさ、と洋一は切なそうに続ける。


「皆、「一人」で文句を言ったりしないんだ。
 集まって、固まって・・・さ。
「皆」で、なんだよ。文句を言うのも、嫌って来るのも。
 ・・・もっとひどい時は徹底して無視されるからね」


「無視・・・」


つぶやく努力に、洋一は「そ」と優しい眼で言う。


「そんなもんだろ、って分かってたよ。
 だって、ボクはあきらかに
 他とは違ったからね。
 普通じゃないし、関わりたくないって思うよな」


「なっ・・・!


「・・・みっちゃんだけ」


声を上げかけた努力の、柔道着に顔を埋めて。


「頭に大きなリボンをつけた、あの子な。
 ・・・直接文句言いに来たんだ、もう凄い前だけど」
 

あんときはビックリしたな、と
首を捻りながら笑う洋一を
努力は、言いかけていた言葉を飲み込み、
その肩を包むように抱きなおした。



「プンプン怒って文句言ってるのを見てて・・・さ。
 クラスの中に、たとえムカつかせる奴でも、
 ちゃんと存在してるんだ、って。

 皆と、・・・ボクに思い出させたの、あの子なんだ。
 ・・・・・・・
 少なくとも、ボクの中では、ね。
 
 本人はそんなの、まるで意識してなかったろうけど」


言って、暗い教室内を見渡し、笑う。

腕に抱きしめたまま、努力は初めて聞く
その話に、知らず口元を引き締めていた。


「だからさ、昔のついてなかった事なんて結構忘れてる。
 わざとそうしたって言うのも、あるけど。

 ・・・その代わりを埋めるみたいに」


いったん言葉をきり、小さく深呼吸をするのが努力にも伝わった。


「・・・みっちゃんの顔が思い出に浮かぶんだ。
 一人で怒りに来て、ボクが見て欲しい時に
 限ってそっぽ向いてて、さ。

 ・・・そのくせ、本当にキツイ時ほど、
 ボクの眼を見て怒り狂ったりする
 あの子がね。

 凄いキラキラして見えたんだ。

 まっすぐな眼のみっちゃんが好きだったんだよ。

 ・・・今でも一番輝いて見えるのは
 ・・・好きな女の子は、みっちゃんなんだ。

 あの子を想う時だけは、ボクはただの学生で。
純粋に「生きてる」、って思えてさ」



「・・・私は一番になり得ませんか・・・?」

「お前、「女の子」じゃないだろうがよ・・・」


何時間前かに、「麻理亜さんが一番」発言をした
己の事はさて置いて、くそ真面目に問いかけてくる
努力に、洋一は苦笑しつつも返答をはぐらかす。


お前、さっきボクがみっちゃんを想い続ける、って
言ったとき・・・動揺の一つもしなかったじゃんか。

胸のうちで呟きながら、
洋一は努力を見た。


「とにかく・・・
 それが「ボク」なんだから。
 なにかあったら、・・・どうしたって
 あの子の所に行っちゃうだろうな。

 努力、そんなの。許せる訳無いでしょうが」


後半、消え入りそうな声になる洋一に、
努力は、何故か微笑み・・・。


「正直、ムッとしますけど・・・ね・・・。
 だからと言って、師匠を嫌う事は出来ないんですよ。

 ムッとするのだって、・・・師匠が好き過ぎるからですし?
 良いんですよ、師匠は師匠のままで。

 私はその度、ムカムカしながら貴方を
 「好きだなぁコンチクショウ」、と想って。

 ・・・たとえ貴方の視界の隅だろうが、
 努力重ねて、入り込んでみせますから」



「?!」と、目を全開に呆然とする洋一に、
努力は「師匠ったら」、と困り顔で自らの襟元を引っ張り、
涙でグシャグシャなその両頬、目元をゆっくりと拭い。
そして、静かに言葉を紡いだ。


「「許せないと思うことと、嫌う事は
似てる様でまるで違う時もある。
 だから、あんたの事は追っかけない」」


何を言い出したのか?と瞬きをひとつ。


「「でも、マヌケ面下げて私のとこへ戻ってきたら、
 今度こそ本気で惚れさせてあげる・・・。」

 麻理亜さんに、バシッ!!と胸を叩かれて
 ・・・そう言われたんです」


ああ、と腑に落ちた洋一は、
罪作りで、不器用で、どうしょうもない
自称弟子を見つめ・・・
「そっか・・・」と呟いた。


「・・・言われて、その。
 思わず、見惚れてしまったんですが。
 
師匠、そんな私を許して下さいますか?」


努力を優しく見つめ、もうふたつ瞬きをして。


「・・・麻理亜ちゃんは綺麗で、強いな・・・。
 ボクだって、そんな事言われたら見惚れちゃ


「!!師匠も麻理亜さんの気高いお姿に・・・?!!
 さすが麻理亜さん!!!
 だがダメです・・・!師匠!私を見て


「うっさい!!!とんちんかん!」


顔を真っ赤に変えた洋一が、努力をはたく。


「話聞けよ!!バカ可愛さ禁止!!」、と
意味不明の言葉をわめく小さな師匠に、
弟子の顔はしわくちゃになる。

先ほどまでの凛々しき表情はどこへやってしまったのか・・・。


「私の「一番」は、師匠ですが。
 ・・・師匠の「一番」は・・・」


揺らぐ瞳で問いかける弟子。
弟子と机の間にすっぽりと収まったまま、
洋一は視線をそらす。


「・・・一番って何だよ・・・!
 別に順番つける様なもんじゃないでしょ。
 ・・・変な事、言うなよ」


しゅん、とした努力に心のどこかが痛みつつも。


「一番とか二番とか三番とか。
 ・・・そんな数字貼りつけたりするの、
 ボクがあんまり好きじゃないだけだ」



そう言った時だった。


ピィィィィィ・・・!!とかん高い機械音が教室内に響いて____



『・・・何言ってんだ追手内洋一!!
 順番無くして、勝利はねぇ!!だろうが!!!
 この期に及んで!これ以上何をグダグダ言ってやが____


『静まれ!!こちらの声も向こうに聞こえるんだぞ?!』

『けっ、便利で良いじゃねぇか!!おい!!
 努力、そいつ逃がすんじゃないぞ!
 勝ちを掴むまでボコボコにしてでも


『兄さん!!マイクが壊れ______!!!



ブツッ。


・・・ピーッ。



場違いこの上ない、機械音。
嵐のように通り過ぎた雑音と怒鳴り声。

二つは同時に途切れ、幻の様に消えた。



師弟は放心状態で固まったまま、ギギギ、と
暗がりの中、お互いに顔を見合わせた。



「何、いまの・・・」


「・・・兄さん達と、天才マンの声、・・・でしたよね?」


師弟どちらかの、唾を飲み込む音が聞こえる。


「気のせい、って思って良い・・・?」


「二人で聞きましたし。無理あり過ぎですよ」


しばらく無言でいた洋一の目が、徐々に睨むように細くなり・・・。


「・・・麻理亜ちゃんだけ?杉田君。
 れんあいそぉーだん、なんて物を聞いてもらったのは」


抱き締めていた両手を離し、努力は思わず
ざざっ!!と、洋一から後退する。
どうしてだろう。背中がひどく寒い。


「実は、勝利兄さんにも・・・」


「うん。他は?」


「その時、友情兄さんも顔を出しまして」


「・・・て事は、一匹狼マンも一緒だね」


ふふふ、と笑う師匠が怖い。
未だかつてないオーラに包まれた洋一を前に、
努力は、静かに退路を探り始める。


「天才マンの他も?」


「いえっ、天才マンには・・・何でか気づかれていたんですよ。
 ふと見たら、相談中のメンバーの中にもういまして・・・」


「へぇ、メンバーかぁ〜。どんなメンバー?」


問われ、柔道着少年の顔が一気に青ざめて。
それでも、ぎこちない笑顔で


「いつものメンバーですかね・・・」


と答え。


すっ飛んできた椅子から身をひるがえし、
悲鳴と共に教室から逃げだして行った。











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