お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□09 無知なくらいがちょうどいい
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「想い人の本心を、
 どう尋ねて良いのか分からない・・・?」


学校から帰宅し、冷蔵庫からウーロン茶を、
食器棚からコップ二つを持って
部屋に上がった洋一は。

正座したまま部屋で待っていた努力の言葉に
へえ、と眼を丸くする。


___聞いてほしい事がある。___


何時になく歯切れの悪い口調で瞳を見つめてきた
自称一番弟子。

そのただならぬ姿に、さすがのん気な洋一も
心配になり、こうして自室へと連れて戻ったのだが。


どうも、相談内容は彼の危惧していた事がらとは
種類が違うらしい。


目の前で真剣そのものな顔つきで訴えてくる弟子を
改めて見つめ返した。


・・・まさかまさかの恋愛相談だったなんてなぁ〜。


努力もこういうとこは本当に普通の学生みたいだ。

洋一はどこかくすぐったく想いながら、
コップにウーロン茶を注いでやる。


「まあさ。お前のその分かりやすい態度なら、
 相手にもある程度伝わってると思うけどな、ボクは」


笑って言って、悩める弟子の前にお茶を置く。


「!!本当ですか??!!お気づきですか・・・!」


バカでっかい声が部屋中に響き、
自分のコップに注ぎ途中な
ウーロン茶をこぼしそうになった。


「だ〜!!いきなり大声出すな!」


先ほどまでの珍しくおとなしかった努力は
どこに行ったのか。

すみません、と心ここにあらずな謝罪をしながら。

見つめ返してくる杉田努力はいつも通りの暑苦しさで、
・・・なんかやたら顔をキラキラさせている。


っていうか、顔近いよオイ。

心のうちでツッコミを入れつつ、


「ま、まあ・・・

 相手がよほど鈍感じゃなきゃバレバレでしょ。

 彼女はお前が惚れてんのも知ってんだし、
 今さら本心も何も。
 探して会って、直接聞けば良いんだよ。
 その悩み?だかなんだかをさ」


身を乗り出してきていた弟子をさりげなく押し返し、
洋一は単純な努力に単純明快な答えを告げた。


「・・・彼女?」

「またまた、照れること無いでしょ。
 麻理亜ちゃんはちゃんとお前の彼女だよ!」


少し変わった二人だけどなぁ、と。


またも声に出さず付け足しながら
ぽかんとした顔で見つめてくる、
努力の背をバシバシ叩いた。

熱血で単純で困りもんなとこもあるけど・・・
こんな鈍感で純な努力ってまるで年下みたいだよな〜。

そんなことを想いながら笑い、勇気づける。



「麻理亜さんになら、昨日お会いしましたよ」

背を叩いていた洋一へ、努力が答え・・・


「?!!なんだ、ちゃんと会えてんじゃん!
 ったく・・・。んで?
 ちゃんと悩みだか、気になってる本心だか、
 麻理亜ちゃんに聞けたわけ?」


一瞬、何とも言えない表情を浮かべたのち、
頭をかきながら師匠を見て。


「色々アドバイスは頂きました。

 最終的には自分から頑張ってみなさい、
 と言われまして。それで、

 その・・・頬にチュッ、とされまして。

 そのままお別れしましたが・・・」


洋一の眼はまたも丸くなった。


「チュ・・・?!!

 ほ、ほっぺにキスされたんかい?!
 もしかして!」


あっさりと頷く弟子に、

「なにそれ〜!!良いなぁ〜!!
 ボクだって好きな子にチューされたいよ!!」


と今度は自室の床をダンダン!と叩く洋一。

それにしたって、聞いてるだけで恥ずかしい。


「心配ない位、ちゃんと相思相愛じゃん!

 頑張れ、って言われたんなら頑張るしかないだろ、
 それは」


うんうん、と一人納得しながら言う洋一に、
「頑張る・・・ですか」と顔を赤らめる努力。


「師匠も・・・チューされたいで・・・すか?」


いきなりな質問に、ぼっ!!と顔を赤くする洋一。

当てつけか?!ノロケなのか?!

くぅっ、と喉をならしながら、
キッ!と弟子を睨みつける。


「そりゃあね・・・!されて嫌な訳はないでしょうが」

ふん、と強い口調で言い、そっぽを向く。
端からみれば拗ねている以外の何物でもない。


ああ、みっちゃん・・・。


はあ〜、と今日何度目かのため息をついた師匠の前で。

弟子は燃える瞳で力強く宣言した。


「迷いが消えました・・・!!麻理亜さんの言う通り、
 先手必勝で行かせて頂きます・・・!」


一人燃え上がる弟子においおい、と思わず笑う。


「先手必勝もなにも。お前が先に麻理亜ちゃんに
 チューされたんだから、彼女の勝ちでしょうが」


「??好きな人がいて、
 気持ちが分からず気になって仕方ないなら
 こうしてみなさいよ、と。

 そう言われただけで、麻理亜さんとは
 勝ちも負けも・・・」


また乱暴なアドバイスを・・・と頭を抱えつつ、
何かが突然引っかかった。



「・・・こうしてみなさいよ・・・?」


「はい・・・!麻理亜さんのおかげで、
 ようやく長年の想いを伝える事が出来そうです」


まさか。いや、でもまさか。


「・・・想いを伝えたい、って。

 好きで気になって、って。

 ちゃんと麻理亜ちゃんのことだよな・・・!?」


「違いますけど」



「!!?違いますけど、じゃねえぇ〜〜!!!

 か、彼女に他の女の相談なんかするか??!
 普通??!!!」


ツッコミを入れずにはいられない。

いつの間にか立ち上がって叫んでる師匠を
まじまじと見つつ。


「何故、師匠は泣いているんです?」

「泣きたくもなるわ、おい!!」


これほどだったとは・・・
もうやだ、このデリカシーの無さ・・・。


へなへなと座り込み、努力を眺める。


「・・・お前、麻理亜ちゃん一筋だったんじゃないの・・・」



少し落ちた沈黙。

その沈黙を、低く落ち着いた努力の声が破る。


「麻理亜さんは、今でも女性の中で誰よりも一番
 お慕いしています。

 ・・・その、「お姉さん」みたいで」


「お姉さん・・・」



言いも悪いも、精神的には彼女の方が強く
上だった、と言うことなのだろうか。

確かに滅多に顔も合わさない、一風変わったカップルのこの二人。

努力はこうだからアレだが、
麻理亜ちゃんにとっても、
努力はイタズラにいちゃつき、
べったりと依存するような対象では
無かったのかもしれない。

まがいなりにも彼氏に、
他に「好きな相手がいて困ってる」。

そう言われてアドバイス出来るなんてカッコ良すぎる。

余裕というか・・・

それこそ、半分弟を想う様な気持ちが
混じっているのではないか?


ぼんやりと想いを巡らせている洋一のそばに、
努力が遠慮がちに近寄っていく。



「麻理亜さんが言われるには・・・
 勝負は先にしかけろ、だそうです」

「う・・・ん?」


頬に当たった温かく柔らかいなにか。


反射的に頬に右手をあて、そちらを見れば。

真っ赤な顔で、でも逃げることなく自分を
まるで睨む様に見つめてくる、自称弟子の姿があった。


どのくらい固まっていただろう。

ようやっと声に出せた一言は、どこか
他人事のような言葉の連なりだった。


「ボク男。お前も男。
 んでもって師匠と弟子。
 ボクが好きなのは、みっちゃんただ一人」

「・・・わかってます」


驚かなかったと言えば嘘だった。

焦ってるし、正直ちょっと困ってる。

しかし、何に最も驚いたかと問われれば___。


いつも師匠師匠、と暴走気味に叫んでいた努力が。

その感情のベクトルに自ら気づき、悩んでいたこと。

彼の感情のおかしさも、根本的な勘違いも、
とうに気づいて知らん顔していた洋一は。

昔、おもちゃ箱に放り込んだ宝物を
突然目の前に出された様な・・・

そんな戸惑いと、胸苦しさに襲われた。



ただ、どうするべきか。それだけは悲しい位に
分かっていて。


そんな気は無い、と。笑って突き放し、
何事も無かったことにしてやれば良いのだ、と。

勘違いしたまま自分を慕ってくれている彼に。

してやれる一番の事は、とことんずるい、
それだけなのだから。



「ボクはそういう気は全然無い。
 ボクはお前とただ、同級生でいたいから。

 お前のそれは、・・・尊敬をはき違えた勘違いだ」


一気に、意識的に作った
落ち着いた声で告げる洋一。

だが___・・・努力は何も言わない。


「・・・よそうよ、もう。
 努力はボクみたいな師匠無しでもう大丈夫だから。

 ボクだって・・・お前の助け無しに
 やれるだけやってみたいしさ」
 

「よす、とは・・・」


ようやく耳に届いた低い声に、
唇を噛みしめる。


「師匠とか、弟子とか。年がら年中、こうして一緒にいること」



努力の方をとても見る事が出来ないまま、
一気にまくし立てた。

不気味な程に沈黙している「奴」の気配を
すぐそばに感じながら。

胸中に訪れるは、言うべきセリフを
やっと言えた安堵。そして・・・

ああ、それは今日だったのか、と言う苦い想い。


「こういうのって、免許皆伝、って言うんだっけ?」

言って、はは、と笑う洋一の肩を掴まえて___


無理矢理に視線を合わせた努力が、そっと問いかけた。


「・・・泣きながら免許皆伝をくれた師は初めてです」


「かっこ・・・悪くて悪かったね」


こういう時は、見ても気づかないふりを
するもんなんだよ、と努力をこづく。


「師匠にとっては免許皆伝でも・・・

 今の・・・このままの私にとっては、
 それは破門と同じです」


苦しげな表情でうつむく彼に。
洋一は揺れる声のまま___


「・・・ううん。
 破門なんかじゃない。

 どっちかって言うなら、ボクが____

 ・・・ボクが、「師匠」を
 破門にされる、って言う方が正しいんだよ」

「・・・誰に破門されるって言うんですか?!」


訂正するも、反対に食いつくように問いつめられる。

小さく笑ったまま、洋一は
「運命に・・・かな」、と呟いた。




訳が分からない。

そんな顔の努力を見た途端、心のうちで
もう一人の自分が悲鳴を上げるのを感じ___


洋一は、一気に努力を振り払うと立ち上がり、
背を向けた。


「はっ・・・、まいったな。
 忘れてきちゃったよ、数学ノート。
 ・・・学校にさ。
 
 ・・・・・・
 ちょっと取って来る!」


かすれた声で叫んで、洋一は
足早に階段を駆け降りる。


階段下で、クッキーをお盆にのせたママに
はち合わせたが・・・

慌てて顔をそらし。
「ちょっと外に出てくる」と叫んだ。


ママに顔を見られてしまっただろうか・・・?


ついてねぇ、そう想いながら。





急ぎ、追ってくる努力の気配を背に、
心のうちでそっと告げた。



お前は知らなくて良いよ、と。

そう。

無知なくらいが、ちょうどいいんだ。











 『無知なくらいがちょうどいい』



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