お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□04 反抗期武勇伝
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夕暮れが藍色と月に役目を引きつぎ、
校舎の見える空の一角に、そっと姿をけしてゆく。


そんな雰囲気溢れる空のその下で、
校庭でイタズラに走り回る、柔道着とたまねぎ頭。


「知らなかったんですよぉ!!!」と叫ぶ声に
「冗談じゃねぇ〜!!ついてねぇ〜〜!!!」と
泣き叫び、怒る声。

先ほどまでのシリアスな空気は見事に壊れ、


・・・ただひたすらやかましい。








 『反抗期武勇伝』









「大事な話の途中でっ、暴れだすのは止めませんか?!」


紅い頬で言い、校庭で逃げまどう努力、
追いかける玉ねぎ少年。


「大事な話してたのはボクのほうだ!!!
 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!!
ど、努力のおバカ〜!!」


再び、校舎裏の人目の無い方へ逃げ込んだ
アホ弟子を追って飛び込めば。

待ち受けていた努力に、いともあっさりとっ捕まった。


ハッと見上げた瞬間、額に落とされる口づけ。
真っ赤になった洋一を、それでも離さない。


「何すんの・・・?!」


「・・・もうしわけありません」


言いながら反省の色なく、より強く抱きしめてくる。

こいつはこう言う奴だよな、とどこか遠くで思い、
洋一は息をはく。


熱いのは、たぶん柔道着少年だけのせいではないけれど。


「もう、聞かれてしまったものは仕方無いじゃないですか」


「・・・お前のその変に冷静なとこ、
 ボクたま〜に顔が引きつりそうになるよ」


洋一が努力の長い髪を軽く引っ張った。


「皆にどんな顔して会えって言うんだよぉ・・・!」


後半は完全なる涙声。


校庭裏の倉庫の影、その暗がりが、
ベソかく師匠の背を擦る弟子、と言う、
ある意味いつもの二人の姿を隠していた。



「さきほどお願いした言葉、
・・・もう頂いて良いですか?」


ぎょっ、と眼を開けてみれば、
遠い外灯に照らされた顔面に
融通の効かない真面目さを貼りつけた、石頭がいて。

洋一の瞳が揺れる。


「何の話だか・・・


「師匠の一番傍で、一番強く愛しても良いと・・・!
 し、師匠も私の一番傍で、一番私を愛してイチャイチャ


「何言ってんだよ?!!おまっ、
 その真面目な表情で、弾んだ声出すの止めてくれ・・・

って!!全然違うでしょ?!

ボクを、その・・・「守りたいと想う事を耐えないで良いか」、
「傍にいて良いか」って!!
お前、そう言ってたでしょうが!」


両手の平握りしめて、ツッコミを入れる洋一だったが。


「よく覚えておられるじゃないですか」

と、にっこり笑う弟子に赤面のまま沈黙する。


「少し、願望が入りましたけど・・・、
 基本変わらず、ですよ、師匠。

 全部を受け入れて欲しいとも、
 ・・・押しつけようとも思いません。
 ただ・・・限界ですから・・・。

 耐えるところは耐えますので。
 
 全て理解して頂いた上で、ただ・・・
 ただ、そばにいさせて下さい。
 
 一緒にいて良いと・・・。

 師匠に言って頂けるか、否かだけです」



言いたい事は山ほどあれど。
師匠と呼ばれて早や幾年月、洋一は知っていた。

一直線に走り出した努力を止める術は無いに等しい事と。
そして、勝利が後ろについた時の努力が負ける訳が・・・
諦める事がないであろう事を。


なんちゅう三兄弟だよ、と頭痛を感じずにはいられない。

努力は、師である洋一から本心からの強い別れの意志を
聞かぬ以上、どこまでもどこまでも自分を想い、
傍目も気にせず、守り続けてくれてしまうのだろう。

そんな奴の、心の内を言葉で聞いた上で
そばにいることを・・・共にある事を許してしまったら。


長年想い続けたあの子に、一喜一憂する師匠の姿を。
笑ったり、困ったように見つめて来た
努力の胸の内の叫びに、もう耳を塞ぐ事は出来ない。

大事な奴が苦しんでいる姿を、本当に知ってしまえば・・・

どんなに「自分が一番大切」と言ってみたところで、
ただ寂しく、空しいだけなのだ、と。
洋一はもう、知っていたから。



さっきの追いかけっこで、良いも悪いも
緊張が解けたらしい努力が微笑んでいた。

その笑みは、どんな返答が来てももう引く気は無い、と。
勝負の相手に、負けを確信させる類いの微笑みだった。


抱き締められたまま、
柔道着の帯を力なく掴み、洋一は眼を閉じた。

本心だとか何だとか。
そんなものを、自分が器用に口に出来る訳が無い。


ただ今は、こうしてて欲しい、って言ったら____。
こいつ、どう思うのかな。
石頭だからな・・・。


胸の内で呟き、石頭男の背なかに手をまわそうとして・・・

何かが右手に触れた。


小さくて丸い、ボタンのような何かに顔をしかめ、
洋一は「ちょい待ち」、とそれをはがした。


「何です?それ・・・」


「努力のココに付いてた」


言って洋一は自らの左肩後ろを指さす。
目を丸くする弟子と共に、外灯を頼りにのぞき込めば。

これは盗聴マイクです!!と絶叫している様な、
あまりにも分かりやすい代物がそこにはあって。


恥ずかしさがぶり返したらしい
紅い顔の洋一からそれを受け取り、
努力が指先で粉砕する。

今朝、次兄と顔を合わせた際、左肩を叩かれ
励まされた事を思い出し、と頭をボリボリかく三男坊を
師匠の疑惑の視線が突き刺さした。


「あのさ、他にも隠しマイクとか付いてんじゃない・・・?」


その言葉に顔を引きつらせ、全身をかきむしる様に調べ____
努力はホッ、と息をついた。


「あれだけみたいですね・・・!大丈夫です、師匠!」


まったく、と倉庫の壁にもたれ
頭を押さえていた洋一が顔を向けると。

自称弟子は、両手広げて構えていた。


「・・・何やってるの、お前」


問われ赤面、目をしばたかせ・・・
キリッ!と洋一を見て。


「さっきの続きを!!さあ!」


「言われて出来っか!!んなもん!!」


じりじりと近寄る努力に、壁伝いに後退する、たまねぎ頭の少年。


「抱き締めないと話も出来ないのかよ?!」と
裏返りそうな声で抗議するも、
「すぐ逃げるじゃないですか!お、落ち着かないんですよぉ・・・!」
と却下、捕まえるべく歩幅を広げる。


「ボ、ボク、もう家に帰んないと!!
今日は送ってくれないで良いからな?!
ママ達も待ってるはずだしっ!!」


「いえっ!!師匠のお宅を飛び出す私を
 皆さん手を振って応援して下さいましたから!!
 何が何でも、師匠の本心だけは聞かせて頂きますっ!!」


「?!ママもパパもっ!・・・適当過ぎるでしょ〜??!
 ついてねぇ〜〜!!」


逃げるうちに外灯の灯りに近づいていたらしく。
先ほどの盗聴マイク探しではだけたらしい、
柔道着の胸元が弱い光に照らされた。

その胸元に、不自然に紅い個所を見つけ・・・


「師匠?」


いつの間にか足を止めていた洋一に、
小首傾げて近づいて来る。
その視線が、自らの鎖骨の少し下にあると知ると、
ああ、と胸元を掻いた。


「また修行中のケガ?お前、いくら頑丈だからって、
 少しは加減しないと・・・」


「違いますよ、これは麻理亜さんに付けられた___


そこから先は、いきなり口を塞いできた
洋一の両手に遮られ、言葉に出来ず
・・・努力の口の中で消えてゆく。











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