お題にTRY!スレイヤーズ二次創作小説

□19 泥棒は未来を盗む
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「届け物をした帰り道に・・・アイツらに捕まったんだ。
 街まであと少し、ってとこだったのにさ」



黒髪の、ピーターと名乗った少年は、傍にあった椅子をひき、自分に座るように促してきた
ガウリイの穏やかな眼を見、しばし沈黙すると・・・小さな声で話し始めた。



コイツの命が惜しければ金を持ってこい。
だがロードにでも助けを求めようもんならコレの命はない、と。


数少ない荷物を路銀ごと奪われた少年二人は王道展開ながらそう脅され、
一人だけを解放したのだと言う。


「でも、僕らから金なんて引き出せないだろ?

 父さんと母さんは・・・もういないし。
 僕らを雇ってた商人は言うまでも無く、知らん顔だろうしね」


ピーターが逃がしたと言うお使いの連れの少年は、間違いなく
商人に事の次第を報告し助けを求めたはずだ。


なのに、一年近くに渡る放置。


商人がどのような判断を下したのか・・・察したガウリイが、嫌な顔をする。


「もう良いんだよ。僕はティムも、誰も恨んでない。

 あの人やばい金いっぱい持ってたからさ・・・。
 ロードに知られるの、怖れたんだと思う」


ティムと言うのは連れの少年だと解るが、
あの人と言うのは・・・仕えていた商人だろうか。


「良くはないだろう、ちっとも」


眉間にしわを寄せ唸るガウリイにピーターは
「そう思った事は嘘じゃないよ」、と肩を震わせた。


「ティムには母さんがいるから。・・・あの時はやっぱり僕で良かったんだ」



ガウリイの眼を見て言うと、その瞳の青い色に耐えられなくなったかのように
下を向いてしまい・・・

そして、ピーターは泣き喚かんばかりに話し始めた。



「なのにさ、諦めたはずだったのに・・・!
 いざ殺されそうになると不思議なことをするもんでさ。

 命乞いで・・・色々やったんだ、僕」


なぜこんな初対面の、どんな相手かも判らない剣士に話さずにはいられないのか。

ピーターは己の理解しがたい言動を自覚しながら、それでも止める事が出来ない。


「料理が上手い、ってなんだか喜ばれて。
 さっきも明日の朝飯作って準備してた。
 凄い食うからさ、あいつ等。全部作るのに時間かかるから。

 ・・・必死にこう顔色窺って。
 それで・・・何とか。生かして貰えてただけさ。
 
 アジトを移動するたび連れ回されて、逃げられなくて・・・。

 他人から見たら絶対、絶対・・・僕だって立派な盗賊で、悪人だ!!」



「・・・お前さんはただ・・・生きようとしただけじゃないか。

 それが悪人なんて言われるなら、俺も、俺の連れもお前さん以上だ」


疲れ果てた眼差しで見上げてくるピーターの前で、
ガウリイは先ほどまで彼が持っていた包丁を手に取った。


「同じ刃物でも違うもんだなぁ〜」


爆音響く盗賊のアジトで逃げまどう男たちの悲鳴をBGMに、
ピーターの耳にだけ、穏やかなのんびりとした声が届く。


「俺のこれは、戦う為に。
 お前さんはこれで、美味いもんを料理しちまう」


言って、ポンポン、と己の持つ武器を軽く叩いてみせて微笑む。


「世の中にとって自分が悪人なのか、英雄なのか、か・・・。
 そんなの、一人で決められるもんでも無い気がするぞ?

 それぞれの戦場に出て初めて分かる事もあると思うんだが」


「・・・僕はケンカ出来ないんだよ。だから戦う事も出来ない」


ほい、と返された包丁を受け取りながらピーターは苦く笑って、また下を向く。


「お前さんの命を救ったのは、間違いなくこの腕だ。
 命乞いのせいなんかじゃない。
 他に代わる者がいない、と突きつけた料理の腕だろう?」


「自信を持って良い」、とガウリイはリナによくそうするように
ピーターの頭をワシャワシャ、と大きな手で撫でた。


「腹ペコの奴一人位の英雄になら、きっとなれるはずさ」


びっくりした顔で立ち尽くしているピーターの肩を押し、笑って座らせる。


「・・・ガウリイ〜。あんた何手伝いにも来ないで、
 こんな所で井戸端会議なんか開いてるわけ?」


ピーターが一気に青ざめ、子兎の様に飛び上がりガウリイの背に隠れた。





目指している国への丁度通り道だったから、と言うのが彼女・・・

リナのセリフだが。


それだけでピーターを安全な港町へ連れて来たのでは無い事を
ガウリイは知っていた。


照れ屋の彼女の攻撃魔法を食らわぬ様、口にこそ出さないが。


「ピーターの奴、田舎でいつか小さな料理屋をやりたいって言ってたけどなぁ・・・。

 まず少し休んだ方が良いよな、どう見ても」


この町までの旅の中、二人に感化されたのか元気を取り戻しだした少年が
大きな荷物を背負い、リナとガウリイに大きく手を振っている。


「本人が張りきってるんだから、ま。良いじゃない」


駆け出しては振り向き、また駆けては振り向く後ろ姿に手を振りながら、
リナはガウリイに言葉を返した。


ピーターはこの町の魔導士協会で、料理見習いとしてのスタートをきる事になった。

まだ年若い少年の心の傷を、この海の美しい港町に住む温和な人々はきっと癒してくれるだろう。


「ピーターの料理の腕、あたしたちもう確認したでしょ?
 大丈夫よ、きっと自信つけてもっと元気になってくから」



信じていれば心配はしない。

リナの自信に満ちた顔に、ガウリイは昔どこかで聞いた言葉を思い出す。



「お前さん・・・何だかんだお人よしだよな。
 あんだけ金があれば、しばらくの間は衣食住の事で他人に頭を下げずに済むぞ」


「何言ってんのよ、ガウリイ」

リナが優しく微笑んだ。


「今ピーターにあげたお金はぜ〜んぶ、
 ここ二カ月の間で解決させた仕事のアンタの報酬分なんだから」

「鬼か、お前は」


「仕方ないじゃないの!だ〜ってあの盗賊達、散々期待させといて
 めぼしいお宝全然持って無かったんだし!」


言われてみてやっと、ここ最近の報酬を渡されていない事に思いあたり。
ガウリイはガクッ、と頭を下げる。

もっとも、財布は別であっても同じ様なもの。
旅で困る事はほとんど無いだろう。


ただしばらくの間、ますます彼女に頭が上がらなくなるだけで。



「・・・ま、いっか」

「そ〜よ。代わりに最高の「お宝」見つけたんだし」


と青空を見上げながらリナは言い、
やたら器用にウィンクひとつ。


もうピーターの後ろ姿も見えず、ただ海の水平線が陽の光を浴びて輝いている。



「そ・れ・と!無一文に懲りたら、少し自重する事ね」


ため息まじりに言われた小言の意味が解らず、ガウリイがキョトンとしていると。


「優しい、ってのは無責任と紙一重なんだから。
 この位の事をして、初めて「人に何かした」って言えるのよ」


「そうなのか?!」

「ま・・・アンタの場合はもう少しタチが悪いかも」


頭を掻きつつ目つきがますます険しくなる。


「とにかく!ガウリイが「大丈夫だ」、って言うと変に説得力があるのよ。

 あの子だってその気になっちゃったでしょ?
 言った当人が、脳みそクラゲ男だ〜!なんて知らないから」


「いや・・・俺は本当に大丈夫だ、と思った時しか言ってないぞ?」


「優しいのも良いけどね。・・・言葉には責任が付きまとう、ってこと。
 覚悟が無ければ、ただの口先だけの奇麗事じゃない」


言われるほどに、どんどん困った顔になってゆくガウリイに、
リナは「聞いてんの?」と声を低くする。


「そっか・・・うん。・・・そうだよなぁ。

 俺、お前さんの事でしか覚悟とか、責任とか考えてないからなぁ・・・。

 まるで気がつかなかった」



そして、「すまん」と力なく微笑んだ。


「・・・なんだ??顔真っ赤にして」


硬直したままゆでダコの様になり、突然言葉を発しなくなった
彼女にガウリイは「怒っているのか?」と慌てだす。


「俺、そんなに酷い奴なのか・・・?!なあ、リナ!」


「あ〜もぉっ!!ほんっと、タチ悪いんだからっ!」



長い金髪を風に泳がせる青年は明るい陽射しのなか、
急な坂道を物ともせずに駆け上がってゆく
栗色の髪の少女をただポカン、と眺めた。


なにを怒っているのか?と腕を組みながらふと足元を見れば。


地面にはりついた小さな影の中に、
道を選べなかったもう一人の・・・かつての少年の姿が揺らいで見え、消えた。


あの頃の孤独を照らす光が今、彼の目の前で
躊躇も無く輝いて。そして何やらプンスカと怒っている。



自分の退屈も、空しさも、たぶんロクでも無かったであろう未来も・・・


あの日あの森で、この少女に盗まれたのかもしれないと。




ガウリイは照れたように頬をかくと、自分を待っているリナの元へと駈けだした。


小柄で手荒な泥棒の、栗色の髪にそっと手をやり微笑むために。










(完)
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