お題にTRY!スレイヤーズ二次創作小説

□19 泥棒は未来を盗む
1ページ/3ページ






彼にとって、それは突然すぎる出来事だった。




街道から奥に入った、うっそうとした森の中。

一目で盗賊と分かるであろう大男たちが逃げ場を失い、
各々に喚き散らしながら酷いありさまで逃げまどっている。


深夜も遅く、暗闇に支配されているはずの世界は
赤く燃え上がり______



「ファイヤー・ボールッ!!」

ズッドォ〜〜ンッツ!!!



慌てふためく男たち数人が火を消そうとするが、その時間も与えずに
次々と鼓膜を破らんばかりの大爆発が轟く。



「こんな事があるはずがない・・・!!」


掘っ立て小屋の柱に隠れていた彼の後ろから、震えた声が聞こえた。

振り向かずとも判る。「盗賊団ドラガラス」の頭の声だ。


盗賊とは新たな獲物を求めながら移動を繰り返し、奪い、飲む生き物。


先日落ち着いたばかりのこの地には、
他に脅威になる様な盗賊団の名は無かったはずだった。

ロードがすぐさま討伐に動く程、力を入れるだろう
政治的繋がりのある街が近隣に無い事も下調べの内。


だからこそ移動を決め、ここに来た頭が混乱するのも無理もない。


人数をそれなりに揃えている大所帯の、しかもまだ小屋を構えて
間もない盗賊団に夜襲をかけるような者達がいるなど、誰が想像しただろうか。



巨体を震わせながら真っ青な顔で小屋の中を歩き回る男を見ているうちに、
彼を縛り付けていた金縛りが解けたように、身体が動きだした。


初めはゆっくりと。

そして次第に頭から離れ、全力で駆け出す。


「てめぇら!!お宝かき集めてひとまずこの場を離れるんだ!!」


その背中越しに、今朝まで怖ろしくて仕方のなかった男の
情けない叫びが熱風と共に遠のいてゆく。

そしてそれが彼が最後に聞いた、
「盗賊団ドラガラス」で頭と呼ばれた男の言葉だった。




「・・・まあ!!」


盗賊達の建てた掘っ建て小屋の影から、ひょこっ!と栗色の髪の少女が顔を出した。


「今の聞いた?ガウリイ。「お宝かき集めて」、ですって!
 良い響きねぇ〜」

「あのなぁ、リナ・・・」


話しかけられて出てきた、ブロンドの長髪をした背の高い青年剣士が息を吐く。


「あたしを呼んでるとしか思えない言葉だわ!」

「いや〜、呼んではいないだろ。絶対」


キラキラと輝く彼女の瞳を見、青年剣士・・・ガウリイは無駄と知りつつ呟くが。


「さ〜!!あたしも確認と没収に行ってあげなくちゃね!
 待っててね〜、あたしのお宝ちゃんたち!」


やっぱり聞いていないリナが、笑ってマントをひるがえし走り出す。




展開は一方的なものだ。



夜中に突然攻撃呪文を叩き込まれたのだから、盗賊たちもたまったものではない。


「おっし!!ここかしら〜?!お宝ちゃんは!」


まるで悪役なセリフを口にしながら、ドラマタ娘が
上機嫌で掘っ立小屋の簡素な扉を蹴り開けた。


しかしそこにお目当ての物の気配はなく・・・


代わりに、大きな木のテーブルの上に所狭しと並べられた
たくさんの料理が目に飛び込んできた。


中にはまだ湯気をたてているものもあり、作られてまだ間もない事が解る。

まな板が床に転がっている。まだ作っている途中だったのかもしれない。


鼻をくすぐる良い香りにつられ、リナが無防備に近づき・・・
そのまま、ひょいパクッ!と口に料理をひとつ放りこむ。


「え?!・・・なにこれ?!凄い良い味じゃない!」

「おいおい!大丈夫かよ?!そんなん食って」


「平気平気。毒を入れる時間もなにも無かったはずよ」


ほれ、と木の器に盛られた野菜炒めを差し出される。


「ほんとだ!!美味いぞ、これ!」


全く予想していなかったシチュエーションで巡り会った美味なる
ご馳走に、リナとガウリイはハイテンションであれもこれも!と
手当たり次第に料理を平らげてゆく。


ただの軽い味見の筈が立派な食事並みの量になっているのだが・・・


あいにく、この場にそれをツッコむ者はいない。


「さあ!お腹も少し落ち着いた所で、ラストスパートしちゃいますか!」


盗賊達のご馳走を粗方たいらげた直後に、その盗賊達を一掃すべく燃える彼女。

酷いと言えば酷い話だが、さすがのガウリイも悪人相手に情けをかけるつもりはない。



リナの方は心配せずとも大丈夫そうだ。



元気いっぱいに駆け出して行ったリナを見送り、珍しくついて行かなかった
ガウリイが、持ったチキンをかじりながら台所とおぼしき場所へ歩いて行く。


「出てこいよ。これ作ったの、アンタなんだろ?」


言って、迷う事なく大きな樽の蓋をあっさりと開ける。


その中に隠れていたのは、震えながら包丁を握りしめこちらを凝視する、
痩せこけた一人の少年だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ