お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□01 質問禁止事項
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「おこずかい、大丈夫なんですか・・・?師匠」




大きなガラス張りの外壁が印象的な、
若者と、子供受けを意識した造りのファーストフード店の中で。

店の雰囲気からちょっと浮いた、
柔道着の少年が苦しげに呟いた。


問われた、向かい側に座る玉ねぎ頭の少年は
ジト目でチーズバーガーに手をのばし___


「チーズバーガーで破産を心配されるなんて。
 んな貧しい神様がいてたまるかって〜の」


はいよ、と柔道着の少年___

杉田努力の手のなかへ、
半ば無理矢理にチーズバーガーを押しつけた。


困った顔のまま、チーズバーガーを口に運び。
そのとたん、目をキラめかせて


「・・・美味しいです、師匠!」


と喜びだす弟子を前に、洋一は堪えきれずに笑い出す。


「うん。努力はそういう顔が一番良い。
 チーズバーガーがやたら美味しく思えてくるよ」


言われ、自称弟子は照れた様子で目を伏せたかと思うと、
次の瞬間、バッ!!と師匠を見つめた。


「師匠と一緒に頂くものは、
  私も!何でも美味しいですよ!!!」


「バッ・・・!何大声で言ってんだよ・・・!」


頬を染め、慌てて手に掴んだポテトの束を
努力の口に突っ込む。


まったく、と視線を逸らし。


・・・その逸らされた洋一の目線が、
一点に注がれたまま、動かなくなっていた。


「?」と努力もそちらに目をやれば_____。



まだ幼稚園生位の小さな子供が、
カウンターにぶら下がりながら喋っている。

後ろから支える老夫婦に、
「それちがう」「青いの付いたやつ!」と
何事かを懸命に訴えていて。


孫連れ、と一目で分かる光景だった。


二人は孫にせがまれるまま、その望みの注文を
慣れ無い様子で店員の女の子に告げていたが。

察した彼女が示した、店内のポスターを見て
子供が「あれ〜!」と歓声を上げる。


どうやら、無事注文出来たらしい。


微笑ましいワンシーンを見届けた後、
可愛いですね、と視線を戻すと。


先ほどまで、弟子の顔を見て楽しげに笑ったり、
怒ったりしていた少年の表情が消え・・・
虚ろな目で、まだそちらを眺めたままだった。


「師匠?」と。体を大きく動かしながら
呼びかける努力の声に、ハッ、と顔を向けた。

一瞬、努力の瞳を見つめて・・・


「ああ。なんの話だっけ?」


と小さく笑った。


そんな様子に、眉をひそめるも。

洋一は、努力に思案する時間も与えず
急に「そうそう!」、と声を上げる。


「そんなことよりさ、もう一件つきあってよ」


「え?!」、と固まる努力の前で、洋一は一気に
ドリンクを飲み干し・・・むせ返る。

服に少しこぼしたのか、「ついてねぇ」と呟いて。
苦笑し、ポテトの残りを努力に勧めた。


「なんか良い感じの服屋見つけちゃってさ」


断られる事を考えていないその顔に、
努力は・・・


今日も、ぎこちなく首を縦に振るしかない。





・・・師匠は一体どうしたのだろう___。





それこそが、ここ何週間もの間、
自称弟子である努力の胸に居座り続ける疑問であった。



脈絡も無しに突然賑やかな街に連れ出され、
軽食をおごってくれたり。

フラリと入って行った洋服店で、
ポロシャツを買い与えられたり。

普段から、この少年はサイフのヒモがゆるいのか、
又は何だかんだお人好しな性格の為か、
常に腹ぺこな弟子と、そしてもう一名に

「ついてねぇ」

とぼやきつつ、ジャンクフード等を
おごる事は、決して少なくはない。


ただ・・・ここ最近の追手内洋一少年の散財ぶりは
不必要な物があまりに多く。
鈍感、と人に評される事ばかりの彼の弟子にさえ、
その異常さは、はっきりと感じられる程であった。


常に「師匠の視界に入る場所にいたい」と望み。


そう努力を重ね、過ごして来た身としては、
この「洋一の方から自分のそばに来てくれる」
という事態は、染みいる様な幸福感と・・・

同時に、言い知れぬ動揺を与えた。


地球滞在中、毎日の様に連れ出してくれる師匠に、
正直、嬉しさも隠せない・・・だが。


「・・・このままでは師匠が貧乏になる!!」


それを阻止したい、なんとかしたい!
弟子は一人、考え込みながらも方法が分からず・・・。


ズルズルと過ごすうち、日にちばかりが過ぎていった。









「ふむ。それでこんなにテントの中が散らかってるのか」



努力の無言のSOSな視線に気づき、
彼のテントを訪れた次兄・・・
友情の目に飛び込んで来たものは。

様々な店名のついた、袋に入ったままの衣服や小物、
そして真新しい本類が不自然に積まれた
テント内の現状だった。

その真ん中で、困った顔で自分を見上げてくる
三男に、友情は尤もらしく腕を組み、事情を聞き・・・

一部始終を聞き終えたとたん、ニコニコ顔で口を開いた。



「お前、何かしたんじゃないか?」


「・・・えぇええええぇぇぇ〜〜〜?!!」


「別れを前に、相手に出来うる限り
 良い思い出を残そうとする・・・。
 
 うん、ありえない話でも無いと思うよ?」


大絶叫する努力に、ニコニコ顔から一転、
今度は真面目な表情を作り、頷く友情。

傍から見たなら、からかわれている事
一目瞭然なのだが・・・
からかわれている当人がプチパニック状態で、
今はそこまで頭が回らない。


「わ・・・??!わ、別れって?!
 何言い出すんですか、友情兄さん!」


「上手くいってる、と言えるかい?」


さらりと問われ、
「うっ」、と固まった努力だが・・・


「少なくとも・・・・別れるだなんて。
 そんな、頭に浮ぶケンカはありません。
 師匠とは毎日たくさんお話していますし。
 
 その・・・気持ちだって、常にお伝えしてますから」 



大声で言えない仄かな両想い。

学友達にはもちろん、周りの者たち、家族にも
悟られたり、とにかくバレ無い様にだけは気をつけよう。

目をそむけ、紅い顔で言った師匠に、
そうですね、と照れたあの日の記憶。

そして同時に蘇る、兄二人を始めとした数人に、
その日の内にバレにバレた、恥ずかしすぎる記憶。


兄達に隠し事など到底出来ない弟は、
もう二人に隠す事を諦めたらしく、
ごにょごにょと答える。


「心あたりは無い訳か〜」


「・・・ありません、そんな心あたりは」


「すると、あと考えられるのは・・・」



友情はノロケ話をからかいながら、
ふと。

確認の意味を含ませて、一つ聞いてみた。



「今さらだが、彼のどこがそんなに好きなんだ?」


「・・・はあ?!!・・・
 師匠を毎日見てれば、分かるじゃないですか!!」


「いや、分からないぞ努力・・・」


信じられない、と言わんばかりの顔で
兄を見つめたあと、ゆっくりと真剣な口調で話し出す。


「たとえば、あのホッペタ」


「う・・・ん?」


「ぷにぷに触って、嫌がる師匠を
 ムギュー!!と!抱きしめたくなるでしょう!」


「・・・戻って来い、努力。それは半分嫌がらせでしか無いぞ」



真面目な表情のまま、頬を染めている
弟に友情は呆れ果て、ジト目になった。


いつもそんな気の毒な事してるのか。


洋一少年を哀れに思いながらも、
少しばかり、イジワル心を出したらしい次兄は、
わざと「師匠」のカッコ悪い部分を指摘してみる。



「彼は戦闘時は皆の後ろにまず隠れるし。

 日常生活ではあの調子、だろう?
 情けない、とか思わないのか?」


友人にまず戦わせる友情の姿を一瞬連想し、
努力は思わず息を吐くが。


「・・・そう誤解しかけた事もありました、けど。

 それが戦いや、怒りを好まない、
 あの師匠の性格らしさだと思ってます」


言って、照れた様に笑う。


「それに・・・、少し外見を見た位で
 簡単に分かる様なお人ではありませんよ。

 ・・・もう少し、分かりやすくても良いのでは、と
 困る時も、たまにあるんですけどね。
 特に、洋一君の時は」



「でも、そこもまた良いんです」と言う弟の中に、
惚れた弱み、を見てしまって。

今度は友情の方が、隣で共にノロケに耐えていた
親友と、盛大なため息をついた。


勝負運の強さに対する勘違いだけが
軸にあるのでは、と危惧していた時期も長かったが・・・


今の弟の口ぶりを聞いていると、
それだけでは無い様だ、と。
友情はそっと頬を緩ませる。



からかうのも、ただのノロケに付き合うのも
いい加減止めておこうか。
心の内で笑い、通学カバンを手元に引き寄せて。




「時期的に、彼も疲れているんだろう。
 第10小宇宙の事もこれから、だからな。
 
 あの子にとっては、今お前とそう過ごして、
 喜んだり、困ってる姿を見てるのが・・・
 まあ、一番安心して、楽しいんだろう。

 努力は今のまま、話を聞く時は聞いて、
 お前なりに真剣に答える事。

 笑う時は、一緒に笑っていれば、それで良いんだ」


弟の頭をポンポン、と軽く叩き。


「じゃ・・・

もう行くからな。
そう続け様とした友情の動きが止まる。

見れば、校則違反な制服の裾を、
努力の手が掴んでいた。 



「・・・これから?第10小宇宙の件が、ですか?」


「・・・?
  以前から問題になっているじゃないか。
 第10小宇宙の・・・


「いえ、知っています」



「なら、彼の気持ちも察せられるだろう」


「「これから」、と言うのは本当ですか」


どうにも話が噛み合わない。
眉間に皺をつくる友情に、彼の違和感を感じたようで。
努力は「師匠の話と違う」、と続けた。


「私も気になっていましたから、
 先日、師匠にお尋ねしたんです。

 師匠は、「お前は心配しなくても良い」と・・・。

 「もう治まるだろうから」、そう話されて
 すぐ、話を変えられてしまったんです」



その言葉を聞いた友情は、努力が
肝心な事を聞かされていない事に気がついた。













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