お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□10 夢を奏でし異形の者
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『ねえねえねえ。あんた、何してんの?』



まるで居酒屋で他の客に笑って絡みだす酔っぱらいと同種の、
気軽でのんきな声。


声をかけられた敵はもちろん、おつきマンでさえ、あまりの唐突さに
戸惑い、息をする事すら忘れて辺りを見回す。



部屋中に響く声はどういう訳か、壁から壁にぶつかり合う様に聞こえ____



声の出どころが特定できない。



「・・・どこに隠れている」


苛立ちと言う刺を隠さず問う、給仕の低い声。


「出てこい」


『出てこい、って言われてもねぇ』


「ここにいる筈の者はどこだ。寝室にもいない・・・
 何故分かった?オレが探しに来た事を」


『探すって?誰を』



謎の声に問われ、しばし沈黙し_____。



「ここにいる筈の者、と言った」


『ああ・・・だからこんな騒いでるんだな』


空気さえ切り刻むような強き口調。


しかし謎の声はそれをフワリと受け流し、つまらなそうに言った。



『もの好きだね〜。可愛い女の子じゃなく私に会いに来るなんて』


その言葉に、給仕を乗っ取りし敵は
己が今話している姿なき者の立場を知り・・・


油断なく鈍く光る刃を構え直した。


「出てこい。顔を見せろ」


『会ってどうする。殺意むき出しで怯えちゃうよ、私』



どこまでもフザけた態度に、給仕がゆっくりと首を回す。

怒りに満ちたその動作が、おつきマンには怖ろしくて仕方ない。


腕の中にはまだ洋一が拘束されたままなのだ。



「・・・用がある。それだけだ」


『あんたも「神様やりたい」、とか言うタイプ?』



落ちた沈黙を肯定と悟ったらしく。


『あ〜嫌だ嫌だ』、と緊張感の無い声は更に投げやりになった。



『神様なんてやるもんじゃないね。
責任とかそう言う束縛、元々大嫌いなのに』


「出てこなければ、殺す。まずは・・・」



刃の腹でトン、と。腕に捕らえた少年の柔らかそうな頬を叩く。



「やめろ!!!!!」


唇こそ震えていたが、その叫びは激しい怒りを乗せて
敵の耳に刺さった。


「・・・コイツだ。
どうやらお前の片腕にとっては、大事な子供らしいな」


『・・・やっぱり私はラッキーだよねぇ。

 前まで出来なかった事が出来る様になっちゃって』



先ほどまで明るかった声のトーンが一転して変わった。



『私は今、ひどく楽しいんだ。

 ずっと傍にいて守ってやりたい・・・
 そういうの、みつけちゃったせいで』



「・・・なにが言いたい」



『邪魔されるのは好きじゃない、って事、だ!』


「うっ!!??!」


警戒し、あたりを血走った赤い目で見回していた給仕の顎に
突然アッパーカットが突き刺さった。


まるでガードしていなかった相手からの攻撃に、
給仕の身体は大きく横に反りかえり、重い音をたてて転がる。


勢いのついた給仕の身体を受けとめたデスクから書類が舞い、
その衝撃で、花瓶が円を描く様に激しく揺れて落ち____


給仕の頭の上で、ガシャン!!と奇麗に割れた。



『「神様」なんて言う者はな。こんな場所にいるものでも、
 解りやすく見えるような存在でもない。

 本物の神なんて大層なものは、自分が一生をかけて裏切りたくない・・・

 ただの一つの相手に言うんだよ』



そう言って、攻撃をした人物・・・洋一は幻の様にふわり、と立ちあがる。


おつきマンは目の前の出来事が信じられず、口を開けたまま
少年を凝視した。



『だから・・・洋一も今寝てるから言ってしまうが』


天井に顔を向け苦笑する彼の、その両目はずっと閉じられている。



『私が「神さま」って呼べそうな、ただ一人の子にね。

 こういう事した奴を生かしておく理由は、この大宇宙のどこにも無いな』



感情の読めぬ寝顔で口元だけを動かし、
ミニテーブルから離れ・・・歩き出す。


ゆっくりとした洋一の歩みに合わせる様に、
窓の端から真っ白い光が部屋へと差し込んでくる。



____いつの間に移動していたのか_____



公務室の大きな窓いっぱいに近づいた幸運の星が眩しく輝き、
夜の闇に満たされた大宇宙神星の漆黒を打ち払う。


強烈な白き光に起こされた給仕の身体が呻きと共に動き・・・

その目が開いた。


「私は・・・?!」


自我を取り戻し、頭を押さえ絶句している給仕の姿。


「洋一」はそんな給仕にではなく、足元に顔を向け____


殺意の滲む声で言う。



『・・・影に隠れて、人の誤解を素知らぬふりして楽しむ、ってやつ?』


話しかけたのは、「いつの間にか」洋一のすぐ傍に貼りつく様に落ちていた、
もの言わぬ大きな黄色いリボンのついたプレゼント。



『かりそめの姿をちらつかせて、真の姿を隠す・・・。

  気持ち悪い奴ほどよく使う手だよね』



言葉を受けて、プレゼントが勝手に
シュルシュルと音をたて、その大きな黄色いリボンをほどいてゆく。


そして、箱を内側から切り裂く様にして破った。


現れたのは、透明な水晶を抱きしめた白い天使の置物。




一目見て高価と知れるそれは、おつきマンが
頼んでおいた品物とはまるで異なる物。


何故気が付かなかったのだろう。
他の者に手配を頼んでいたとはいえ、自分が注文した品が
あの大きさの箱に入る訳が無い。


息をのむ給仕とおつきマンの前で、天使が突然洋一の足に飛びつき、
耳障りな高い金属音を響かせた。



「危ない!!!」


動かぬ身体を必死に動かし、絶叫するおつきマン。

しかし、洋一の安らかな表情になにひとつ変化は起こらない。



『無駄だよ。ここにはもう入り込めない』


おかしそうに囁く声が、目を見張る者達の耳に届く。



『相手をよく判断しないと、こうなる訳さ』


言うなり、未練がましく金属音を響かせまくる天使の置物を
勢いよく蹴り飛ばした。


ミニテーブルの脚に激突し、天使は抱える水晶玉を毒々しい紫色に変えながら
絶叫をあげる。


美しかった天使の白い表面が玉子の殻の様にひび割れ、
中から、醜い色のミミズが這い出し・・・力尽き、蒸発。


そして・・・
水晶だった部分が薄く縦に割れ、現れた真っ赤な色の目玉が
絨毯の上に転がり、洋一を睨みつけた。



「大宇宙神様!!」


先ほどまで身体を支配していた給仕の口から、聞き間違えとしか思えぬ
悲鳴があがる。


弾かれる様に、赤い目玉は己の正体を暴いた者を凝視した。



固く閉じられたままの瞳。


しかし・・・


幸運の星の前に毅然と立った少年の後ろに、「何か」がいる。


そう気づいた瞬間、侵略者は確かめる事を許されないまま_____




光を背にまとった少年に力いっぱいに踏み潰された。






『ありがとう』



事件の解決を意味する静寂のなか、洋一の顔が向けられている事に気づき・・・

おつきマンはようやく、その言葉が自分に言われたものだと知った。



『洋一の誕生日を祝ってくれて』


当の洋一の姿で立ちながら、元祖の声で、
大宇宙神は礼を告げる。


何もしていない。出来なかった。


今目の前で起きた事態さえ、目で追うのに必死で
朦朧とした意識と理解が追いついていない状態だと言うのに。


余りある礼の言葉になんと返答すべきか困惑し、
「いえ・・・」と言ったまま呆けてしまう。


おつきマンと給仕の前で、大宇宙神はデスク下に隠された機器に手をやり
ブザーを鳴らした。


静寂は破られ、けたたましいサイレンの音と神殿の者達の騒ぐ声が波の様に広がり、
たくさんの激しい足音が廊下から近づいて来る。


大宇宙神の身体がふわり、とおつきマンの傍まで来て・・・


急にクタリ、と崩れた。


痛む自身の身体の事を思わず忘れ、なんとか抱きとめた少年の体が
小さく震え、その瞼がうっすらと開く。



「ん・・・・??」


ぼんやりとしたままの少年に、おつきマンは「洋一君!」、と。

ついそう叫んで肩を揺すった。



「おつきちゃん?・・・あれ?」


何も知らない無防備な声を聞いた途端、一気に脱力し・・・


「神」という運命を背負うにはあまりにか弱いその体を、
おつきマンは抱きしめる。



へたり込んだまま泣いている給仕と、無言のままに自分を
強く抱きしめるおつきマンに、洋一は訳が解らず腕の中で騒ぐことしか出来ない。



「この血・・・どうしたんだよ??!」

「な?!ねえ!!なんで倒れてんの?!!」



おつきマンは何も答える事が出来ないまま、
洋一の視界に入らない角度でかたく目を閉じ。




深く・・・深く、息を吐いた。
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