お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□10 夢を奏でし異形の者
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「大丈夫かな・・・コーヒー名人のお父さんも」



コーヒー名人のお父さん、とは先ほどまで彼に刃を突きつけていた給仕の事である。


ラッキーマンの姿に変身し、おつきマンの部屋に訪れた主は
包帯を頭に巻いたその姿を目にするなり・・・

項垂れて、呟いた。


もちろん本来の名は「コーヒー名人のお父さん」などでは無いのだが、
あだ名をつけるのがどうも好きらしい主の元、彼も親しみをこめてそう呼ばれていた。


当初はただ「コーヒー名人」とだけ呼ばれていたものが、
最近になり彼がもう諦めていた子供が産まれた事で、その呼び名がまた変わり。

祝いを内に秘めた呼び名に照れる給仕をいつも、
ここぞ!とばかりにからかい出す主に笑ってストップをかけるのが、
夜食の席でのおつきマンの小さな仕事だった。


侵入者の企みと命が消え、主とおつきマンと共に医務室に担ぎ込まれた給仕は、
急激な眠気に襲われ、抗っている中あの金属音が聞こえた事。

そこから先の記憶がどうしても思い出せない悔しさを、涙ながらに話した。




「私ね、名人のコーヒーが好きなんだ。 
 頼むから辞めさせないでよね」


口ばしを尖らせて言う主・・・ラッキーマンに小さく頷く。

精密な検査が必要だろうが、復帰までそう時間も掛からないだろう。


もしあの時、自分の身体に自由が効いていたらどうしていたか・・・。


間違いなく、給仕を倒していたはずだ。
たとえそれが、彼の命を奪う事だったとしても。


ここで大宇宙神に仕える者は皆、口にこそ出さないが
その位の覚悟をした上で働いている。


ましてあの時、自分は給仕の自我が元に戻る事は
もう無いだろう、と判断していた。


全てが事なきを得ても、気がついた洋一少年が
絨毯の上に倒れ伏し絶命した給仕を見ていたら、どんな顔をしただろうか。


おつきマンは今改めて、もう一つの幸運を痛感した。



「油断して・・・ごめん、おつきマン」


そう謝る姿に首を横に振り、扉の横に置かれた大きめの紙袋を指さした。



「さあ。まだ本当の贈り物のリボンをほどいていませんよ?」


おつきマンの言葉にラッキーマンは苦笑し、立ち上がると紙袋を覗きこむ。

中に少しラッピングが破れてしまった本物のプレゼントを見つけると、
おつきマンのすぐ横にある椅子に腰かけ、膝の上に置いた。



「・・・贈り物も無事で良かった。

 ダストボックスに投げ込まれてたのを見つけた者が、
 先ほどこちらへ届けてくれたのです」


「さあ」と促されるままリボンをほどき、開いた箱の中から
意外な物が現れた。



何の事はない。


つい先日まで着ていた高校の夏服である。


夏服の一式が、代えの分も含めて箱の中に納められていた。


リアクションに困り目で問うと、おつきマンは頷いて言った。



「衣替えしたばかりだと言うのに、制服を着れなくされてましたからね」


「う・・・!」


その通りだった。


衣替えしたその日のうちにボヤ騒ぎに巻き込まれ、野次馬たちに押され足を踏み外して・・・

一人現場に落下。


結果、着ていた夏服をまるまるダメにしてしまった。

代えの制服も翌日バス停でバスにぶつかり、ズボンが破れて
自室のクローゼットに押し込んで来たままだ。



元祖ラッキーマンと合体している時は、ある程度監視されているのも
理解し、諦めてもいたが。


自らの情けない姿まで筒抜けだったらしい事実に、
今さらながら顔が熱くなる。



そんなラッキーマンに、おつきマンは穏やかに問いかけた。



「母上様に制服を頼まなかったでしょう?」


「うん・・・」


夏服をダメにしてしまった事も、破れたズボンの修復もママに言わずに
大宇宙神星に戻った。


なぜなら、もうしばらくの間は地球に戻れず夏服の必要は無い。
そう洋一が判断した為だ。



「それから、・・・これはもう少し後でお渡ししようと思っていたのですが」



言って、痛む身体を動かしベッドから立ち上がる。


「まだ動いちゃダメだよ!」と一緒になって立ち上がり、
思わずその腕を掴んだラッキーマンごと、本棚の前へ移動する。


おつきマンに本棚の奥から取り出された包みを手渡され・・・

ラッキーマンは心配顔のまま、好奇心に背を押されるように包みの中を覗き込んでみた。



「国語の古文など、まず貴方の得意な教科を3年生分まで
 終わらせてみると良いと思いまして」


数冊の本を手に、またも目を丸くしている主に片腕は言う。



「後々勉強に本腰を入れる頃、楽になると思います」


包みの中から出てきたのは、大学受験の為の参考書に問題集。


学生でなくても表紙を見れば、
一つの大学に対策を絞って集められた物である、と一目で解る。


高校も二年になり、周りが進路の話題をしているのが耳につくようになって。

無理だろう、と知りつつ胸に隠していた、
それは小さな・・・とても小さな、憧れだった。


おつきマンはもちろん、誰にも話した事がない。


「なんで・・・」


「・・・いつも決まった場所でぼんやりされるものですから。気づきましたよ」



ズボンを破ったバス停のすぐそばにある学校宣伝の看板。


ただ、それを見ていただけなのに。


数校紹介されている看板から、見事に自分の心を惹く学校を
当然のように当ててみせた おつきマンに返す言葉もない。



制服に。頭の痛くなるような受験勉強用の問題集に参考書。

誕生日に贈られて嬉しい物、とは言えない実用的過ぎるプレゼント。



おつきマンは余計な事は言わぬまま、ただ勉強の組み方を解説しながら、
あれこれとラッキーマンの手に置かれた参考書を開いて見せる。


だからこそ、そこに籠められた想いにラッキーマンは唇を噛んだ。


これらは明らかに大宇宙神ラッキーマンに対してではなく、
ただただ、追手内洋一の為だけに用意されたプレゼントだったから。



「こんなにして貰ってるのに・・・。
 おつきマンにも皆にも、何もしてないよ」


いつもなら「ラッキー!」で済ますであろう顔に
珍しく泣きそうな表情を浮かべて呟く。


おつきマンは「・・・そんなことはないですよ」、と微笑んだ。



「私も今日、幸運を頂戴しましたから」


不思議そうに首を傾げて自分を見上げて来る目前のラッキーマンとは・・・

まるで真逆の。





可愛げに欠けたワガママな元祖ラッキーマンの笑い声が、

おつきマンには聞こえたような気がした。









(完)
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