お題に挑戦!ラッキーマン二次創作小説

□10 夢を奏でし異形の者
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恐怖というものを、ここまで感じたことは無い。



大宇宙神である追手内洋一少年を拘束し、
自分を見下ろしている敵を前に。


おつきマンの全身は怒りと怖れに煮えくりかえった。



首もとに鈍く光る刃を突きつけられた少年は
気を失ったまま、侵入者に後ろから拘束されている。



何という事態だろう。
自分という者がついていながら。

おつきマンは倒れ伏したまま怒りに震える。



今日は、こんな日になる筈では無かったと言うのに。








『夢を奏でし異形の者』









自分だけは、この少年に「強さ」をあたり前と想い、
求める事はしたくない。


おつきマンが追手内洋一に対し、口には出さぬ決め事をしたのは
いつからだったであろう。



「・・・お〜い!おつきちゃんってば!」


真横で黙々と仕事をこなしていた主に、口ばしを尖らせ名を呼ばれ。

おつきマンはやっと、自分が珍しく上の空でいた事に気がついた。


「肩がこって仕方ないんだ。お願い。ちょっとだけ良い?」


辛そうな顔で頼んで来た主に、少しならば問題ないだろうと考え頷く。


変身が解けるなりグッタリしてしまった主を
書類に埋まったデスクの前から、柔らかいソファーへと移動を促すと。


心のうちにある計画を実行すべく、おつきマンは
給仕係に声をかける為、廊下へ向かった。


しかし給仕係の姿はなく。

代わりに扉の外に用意されていた、カートに乗った
夜食のショートケーキとコーヒーカップをソファー前のミニテーブルに運び、そっと置く。



「わ!!良いの?夜のオヤツにケーキなんか食べちゃって」


目を丸くして喜ぶ、主・・・洋一少年の笑顔。


確かに普段は胃もたれしないものを夜食に出すのだが。


「今日は特別ですよ」


「うわ!!なんかラッキー!!」


年相応の、変身を解いたこの姿を近くで見られる者は
自分を除いて一体何人いるだろう。


嬉しそうにケーキをパクつく洋一の横顔を見守る。


・・・そう思ったからこそ、きっとこんな欲が出たに違いない。



心底嬉しそうな笑顔を見守りながら、おつきマンはふと
給仕がいつまで経っても来ない事が気にかかった。


あの給仕らしくもない。


手際の良いその者の性格と真面目さを知るおつきマンは、
先ほどのカートが放置されていた廊下に向かい歩きだし、大きく扉を開くが。


やはり、姿がみえなかった。


いつもならばとっくに、自慢のコーヒーを自ら注ぎながら、
主の横で共に雑談を楽しんでいる時間帯だと言うのに。


「ねえ、あの花瓶さ・・・。意味なくない?」


給仕は何をしている?と言う胸中の問いは、後ろからの声に中断される。

ケーキを口にしながら指をさす方へ視線を向けてみると、
人の頭ほどある大きさの淡い色合いをした、
花も何も無い空っぽな陶器の花瓶があった。


「これは・・・確かに不自然ですね」


と目敏く気づかれたおつきマンは苦笑する。


扉を開けた事であっさり見つかってしまうとは。


「給仕が少し遅れていますが、先に始めましょう」


言って、予定より早い計画の実行に動き出す事にした。


廊下に隠す様に置いてあった花瓶を部屋に持ちこみ、
書類に埋まったデスク上の隅へ、邪魔にならぬように置く。



部屋を出たり入ったりを繰り返すその姿を、
洋一は「へ??」と口の端にクリームをつけたまま目で追うしかない。


そして、顔が見えないほどにたくさんの花であふれた花束と、
大きな黄色いリボンのついたプレゼントを両手に抱え戻って来ると。


目を丸くして自分を待っていた洋一に、おつきマンは花束を捧げた。


隠していた、とっておきの種明かし。



「今日、で間違いないでしょうか?

 お誕生日おめでとうございます」


「えっ。・・・えええ?!!」



驚きのあまりだったのだろう。


自分と花束を交互に見ては、何度も声をあげる
洋一の反応におつきマンは満足し、控えめな笑みを浮かべた。


「うわぁ・・・」と呟き、顔を真っ赤すると、洋一は視線をまた
泳がせてからおつきマンを見、嬉しそうに笑って瞬きをする。



「そっか!それで花瓶だったんだね」


美しい花束を両手いっぱいに受け取ると、
照れくさそうに花に顔を埋め息を吸った。


花束をそっと横に置くと、恥ずかしさと嬉しさを誤魔化すように。

ミニテーブルの上のコーヒーカップに手をやり、
その黒く焦げた色をした液体に口をつけた。



洋一の手からコーヒーカップが落ちるのと同時_____



その身体が花束と共に倒れてゆく。


なにが起きたのか解らぬまま、叫び駆け寄るおつきマンの後頭部に強い衝撃が走った。



公務室の絨毯に、花びらと、プレゼントが舞う。




平和な時間が塗り変えられたのは、ほんの数秒の事だった。
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