黒子のバスケ 小説

□放課後の保健室にて
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*帝校時代の話です。+駄文です。




秋から冬へと変わるこの時期に、黒子は珍しく風邪をひいた。



朝起きようとすると、ふらりと目眩を起こし布団へ倒れこんだ辺りから嫌な予感はしていた。
それでも無理矢理学校に行ったのが悪かったのだろうか。

あろうことかクラブ中に気絶してしまったらしい。
全く記憶に無いのですが…







目を覚ますと、そこは微かに消毒液の匂いがする保健室であった。カーテンから差し込む光に目を細める黒子の頭の上には、氷枕がのっていた。

何を…してたんでしたっけ…?

霞む視界に映り込む景色を眺めながら、黒子は上手く纏まらない思考で思案した。
そして痛む関節にムチ打って僅かに頭を上げる。
黒子の視界に映ったのは、
「みどりま…くん?」
何かを探している様子の緑間がいた。緑間は黒子が起きたことに気づき、黒子の方に向いた。

「…熱なのだから寝ているのだよ」
緑間はぶっきらぼうにそう言った。黒子はその言葉を聞いて、ようやく自分が熱をひいていることをはっきりと自覚した。
「…すいま…せん…めいわく…かけて」
こんなことなら今日は大人しく休めば良かった、と後悔が頭をしめた。
そんな考えが表情に出ていたのだろうか。
緑間は眉間に眉を寄せた顔で、黒子の頭をくしゃりと撫でた。
撫でた、というわりには些か乱暴ではあったのだが。

「そんな顔をするのではないのだよ。…それにここに俺がいるのは単純な消去法なのだよ」
緑間はそう言って、ズレてもいない眼鏡を指で上げた。
緑間なりに気を使わせないようにしていることが、不器用ながら黒子に伝わった。

「と、取り敢えず寝るのだよ」

若干どもりながら言われたその言葉に、黒子はこくりと頷きベットに横になった。
座っているよりも、寝ている方がいくらか頭の痛みは和らいだ。

放課後の保健室には、僅かに聞こえてくるクラブの声と黒子の静かな寝息だけ。
暖かい緩やかな空間が保健室に流れる。

緑間は黒子の寝顔をしばらく見つめると、溶けた氷枕を代えるために頭の上からそっと持ち上げた。
その氷枕を近くの机に置くと、緑間は熱っぽい黒子の頭をゆっくり撫でる。

思いの外柔らかい黒子の髪を解くように撫でてほんの少し、遠目にはわからないほどだが、目を細め微笑んだ。
暫く撫でた後、溶けた氷枕を持って立ち上がった。緑間が氷枕を取りに少し離れた所へ歩いていく。


足音が遠くにいったのを耳で確認すると、黒子は僅かに目を開けた。
そう、実は起きていたのである。


――どうしましょう、このまま寝たふりを続けるべきなのでしょうか…

寝ている方がいくらか痛みが和らぐとはいえ痛いものは痛い。つまり寝付きにくい。
それに、先ほどまで寝ていたのでそこまで眠気はなかったのだ。
だが、起きていては気を遣わせてしまうと考え寝たふりをしたのだが、これはちょっと…予想外だ。

緑間の予想外のデレに内心あたふたする黒子。
―――本当、どうしましょう。
そして、この言葉に至る。



そんな時、ガタンと扉の方から音がした。

緑間の視線がその扉の方へ向く。
そしてカツカツと扉の方へ歩を進めると、緑間は勢いよく扉を開いた。その行動を寝たフリも忘れて見つめる黒子の目に写ったのは鮮やかな黄と青。言わずもがな黄瀬と青峰である。
「テツー、大丈夫か?」
「あ!黒子っち大丈夫っすか!?」
黒子に気づいた二人が駆け寄ろうとするのを、緑間が襟首を掴んで止めた。
「…貴様ら、此処が何処だかわかっているのか…?」
地を這うような低音で緑間が問う。口元は笑みを形作っているものの、眼は違う。
一瞬その姿が、部活の主将に重なった。
必然的に首を絞められたことで、蛙の潰れた声を上げる黄瀬と青峰に、緑間は重く長い溜息をついた。黒子はそんな様子を見て、苦笑を一つ零した。

二人が来たことで騒がしくなった保健室に来客がまた一人。

「…お邪魔するよ、そこの二人に話があるんだ。」
そう、赤司である。
絶対零度の笑みを浮かべた赤司に、黄瀬と青峰が引き攣った顔をする。
「いや、これには訳があってよ…」
「どんな訳も必要ないな。」
青峰が苦し紛れの言い訳をするが、速攻でバッサリと切り捨てられる。
「嫌ッスーーーッ!!練習五倍だけは勘弁して欲しいッス!」
「そうか、なら十倍だ。」
まさかの十倍宣言に黄瀬が固まる。黒子はそんな黄瀬に心の中で合掌した。
先程まで怒っていた緑間も憐憫の目を向けていた。

抵抗する二人を容赦なく引き摺りながら、扉の方まで歩いで行く赤司が、ふと振り返り一言告げた。
「あ、そうそう…人払いはしとくから、後はご自由に」
意味深な笑みで告げたその言葉に黒子と緑間、両方が固まった。





二人の顔が赤いのはきっと夕焼けに照らされてるわけでも、熱だからなのでも無いのであろう。

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