黒子のバスケ 小説
□下
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「なんつーか、古い…のか?」
商店街を歩いていると隣で火神が呟いた。
火神の言葉を聞いて黒子は思案する。
最近は商店街自体も少ない。
それに確証があるわけではないが、何となく―――
「俺は、しょうてんがい?だっけか、そいつに初めて来たから気のせいかもな」
「いえ、僕も違和感を感じます」
そう言い、もう一度辺りを見る。
ただ一つ人が自分達しか存在しない以外はなんてことのない景色。
だが、違和感はやはり拭えなかった。
いくら歩き続けても対して代わり映えしない景色が続く。
いくつか中道に入る通路はあったものの、先は真っ暗で何も見えずどちらとも言わずに踵を返した。
途中で喉が渇いたので、黒子から渡していたミネラルウォーターを返して貰ったが、その水が海水をも超える塩分たっぷりなのを思い出し渋々飲むのを諦めざる終えなかった。
ふとその時、辺りの雰囲気が変化した。
何がというわけではないが、あえて言うなら酷く空気が重くなった。
ベチャ…ベチャリ…と、どこかで聞いたような音がする。
火神は激しいデジャブに襲われた。
ギ ギ ギ ギ と効果音が着きそうなほどゆっくりと火神が振り返ると、やはりいた。
二度と見たくはなかったが、やはりいた。
Japanesedoll(日本人形)にそっくりな半分顔が無い少女が。
黒子の手を引いてまた逃げようとしたその時、着信音が響いた。黒子の携帯からだ。
「火神君!その水を思いっきりかけてください」
黒子が言うと同時、またはそれよりも早く火神は手に持っているペットボトルの中身をぶちまけた。
「何でこんなにハッキリいるんだよ…っ」
「ぼやく前に捕まえてください、逃げられたら厄介ですから」
とだけ言うと、黒子は素早く携帯に出た。
火神は塩が傷口に沁みたのか何なのか、のたうちまわる霊を見て後ずさる。
こんなの捕まえろとか無理だろ…、と思うが捕まえないと帰れないことに気付き絶望する。
黒子が話している間に何とか捕まえようと火神は奮闘するが、気分は例えるならば…ゴキブリを素手で捕まえる時にかなり近かった。
俯いていた顔がありえない方向へと回り此方に向いた。
半分に擦りきれた顔が先ほどより爛れている。
―――カオが無イ ト ムカエ 二 キテ クレナイ ナイ ナイノ
手がこちらの方へ伸びてくる。
そして火神は手が伸びた分だけ後ずさる。
何度も何度も繰り返し、とうとう壁際まで追いつめられた。
その時、少女の目がハッキリと見えた。
その瞳は何も映していないような暗い色を宿していて、火神は頭の中の糸がプツンと切れる音を聞いた。
そして―――
「そんな目してたら迎えにくるもんも来ねえだろうがっ!!」
と言いながら強引に手首を掴んだ。
―――アァアア嗚呼アアアア“アア嗚ア嗚呼アアア嗚呼アア!!!!!
オマエノ ヨコセ ヨコセヨコセヨコセ ホシイイタイヨコセタスケテヨコセヨコセ
アアア“アアァア唖亜アアアァア”アアアァ嗚呼イタイイタイイタイヨコセイタイヤメテ コワイ サビシイイタイホシイヨコセ ナイ ワタシ ナンデ イタイノ ?
ヨコセヨコセヨコセヨコセェエエエエエエエエエェエ!!!!
嗚呼アアイタイヨ ママ イタイヨ ハヤクヨコセ
ヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセ!ア、アアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア嗚呼!!!
タスケテヨ イタイヨ イタイヨ
ムカエニ キテ ヨコセヨコセアアァアアア嗚呼アア!!!!!
―――ママハヤク ムカエニキテ
掴んだ手から吐き気がするほどの敵意が、悪意が、そして苦痛の叫びが流れてこんでくるが、離すわけにはいかなかった。
電話を終えたらしい黒子が此方に歩いてくる。
「手早くすませましょう」
そして少女の前に座り込み、火神の手を見るとそう言った。
火神の手は掴んだところから僅かに黒ずんでいた。
黒子は少女に向かって語りかけ始める。
ある事故の話を――――――。
「今から二十年も前に起こった事故の話です。」