黒子のバスケ 小説

□【黒子がゾンビだらけの世界で恋人を探す話】
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黒子は狭い物影へと身を隠し、息を潜めた。

呻き声を上げて、ふらつきながら歩く屍体が黒子の直ぐ横を通り過ぎて行く。
まともに際限無くいる屍体を相手にしていては此方の体力が持たない。
屍体にも、生きている人間ほどではないが、黒子の影の薄さは健全のようである。
とはいえ、気づかれる可能性はゼロではない。現に今まで数回気づかれたことがある。
緊張で歯がガチガチと鳴るのを何とか抑えながら、屍体が幾体も通り過ぎて行くのを横目で見た。

生気の無い瞳に映るのは、ただ一つ。強烈なまでの飢えである。

―――屍体から見れば僕は、人間ではなく只の食材。飢えを満たすためのものでしかないのでしょうね。

そんな事前々から分かりきっていたが、改めてそう考えると何とも言えない気分になる。
誰だって腹の足しにされるのは御免だ。
黒子は辺りに屍体がいなくなったのを確認すると物陰からそっと出た。
行く当てなど何処にも無かったが、かといってこのまま此処に居続けてもいずれ屍体の昼飯にされるのが目に見えている。それに、彼に会える訳でもない。


黒子が歩く度に鎖が音をたてる。今にも泣きだしそうな空が黒子を見下ろしていた。





















雨がぽつり、ぽつりと地面に落ち染みを作る。

路地裏に二つの人影が伸びていた。一つの影は錆びかけた鎖を持っていた。
ジャラリジャラリと音を響かせる鎖は、緊張に包まれたこの光景の中、鈍く輝いていた。
対するもう一つの影は血に汚れた髪のせいで顔がよく見えない。
そして酷く焦っているような、何かに怯えているような様子で、手に持たれた刃物らしきものが血を一滴、また一滴滴り落としながら煌めいている。
どちらにも余裕など存在しない。相手が獲物を所持している以上敵である可能性は捨てきれない為だ。
所謂盗賊に近い奴らがこの世界にもいるのだ。相手が人間だろうが、屍体だろうが容赦も情けもかけることなど出来やしない。
両方同時に動いた。
黒子が鎖を振り上げる方が早かったか、
それとも相手がナイフを突き出す方が早かったのか。

きっと本当に同時だった。だが、決着はついた。相手が勝ったのだ。
地面に叩きつけられ、痛みが体を襲う。勝敗をつけたのは圧倒的な身体能力の差。
―――殺される。
暴れようにも首に冷たい感触がする。ナイフが頸動脈を正確に抑えている為に動けない。
死を確信しかけた黒子だったが、一向に首に痛みを感じる気配はない。それどころがナイフが首から離れる。傷は薄皮一枚切れた程度。何故。何故、今が殺す絶好のチャンスだったろうに。
黒子は何か裏があるような気がして仕方がなかった。とはいえ、折角相手が油断しているのだったらそれを利用しない手はない、と鎖を持つ手に力を込める。
黒子は至極冷静だった。相手がうわ言のように一言呟くまでは。
「くろこ…っち?」
ガシャン、鎖が手から滑り落ちる。まさか。彼は。
その独特のあだ名で黒子を呼ぶ人など、知り合いには一人しかいない。
高校生を卒業してからはあまり交友はなかったが、それでも忘れるわけなどなかった。
「黄瀬君…なん、ですか…?」
黒子が知っている黄瀬とはまるで別人のように見えた。
これほどまでに、手負いの獣のような目つきの鋭さなど、高校生の時の黄瀬には無かった。
一つ、覚えがあるとすれば中学生の時、部活で黒子が黄瀬の教育係についた当初の目。
その時ですらここまで弱り切った、警戒心を限界まで引き上げた黄瀬など見たことなかったのに。
そう考えて、この状況では仕方がないのかもしれない、と思い直す。

二人の周りを先程までの騒ぎに気付いたのか、腹を空かせた化け物達が取り囲んでいた。
数年越しの再会を喜んでいる暇など無い様だった。
黒子は鎖を、黄瀬はナイフを持ち、襲い掛かってくる屍体一体を見事なまでの連携プレイで仕留めた。
そして、地に沈む屍体を踏みつけながら、屍体の囲いから逃げ出した。


後ろから追いかけてくる屍体を巻きながら、これからどうしましょうかと黒子は思案した。




















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(一体何処にいるんですか、――君)







≪あとがき≫
思ってたのと違うのが出来た…orz
黒子っちの恋人がまだ出てないけど、変に長くなりそうなのでここで終了。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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