黒子のバスケ 小説

□初めてのおつかい
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*モブ視点







退屈な学校、上辺だけの人間関係、そんな毎日に飽き飽きしていた私。

でもそんな日常に、一つ楽しみが出来た。







一人だけの下校中に、前をてくてく歩いている(おそらく)小学一年生の赤い髪をした男の子が、後ろをやたらと気にしていた。
一瞬、私が不審者に間違えられたのかと思ったのだが、よくよく見ればその男の子の後ろを必死についていこうとしている(こちらもおそらく)幼稚園生の空色の髪の男の子を見ていることに気が付いた。(影薄っ!)

兄弟なのだろうか、二人とももふもふの服をおそろいで着ており、手に大きな買い物バックを持っている。
ぱたぱた走って後ろの空色の子が赤髪の子にようやく追いついた。でもまた離される。で追いかける、の繰り返し。(お兄ちゃん気づいてあげてっ!)

前を歩いていた赤髪の子が少し笑いながら立ち止まって、空色の子に手を差し出した。(確信犯だったのか!?)


空色の子も(こちらからはよく見えないが)その手を掴んで二人仲良く歩き出した。








その様子を微笑ましく眺めていた私だが、ふとあることに気が付いた。
今すぐ家に帰らないと、見たい番組が見れなくなることに。

この微笑ましい兄弟を眺めていられないのは、かなり残念だが背に腹は代えられない。(二兎追う者は一兎も得ずってやつ?)


私は番組を見るために、全速力で走って帰った。












私の家は雑貨屋だ。
とはいえ、最近赤字続きで両親は毎日パート働きをしており、実質経営してるのは私の祖母だけである。(コンビニに負けた…)

「ただいまーっ!」

そういうと家の二階にバックを放り込んで、一階にしかないテレビを見にいった。
一階にしかないというのは少し不便である。
けれど、最近赤字続きで生活に余裕がないことを知っている私はしぶしぶ我慢するしかない。(テレビが無いわけじゃないしまあいいや)
…そのことに今日初めて感謝した。

下に降りるとそこにはあの兄弟がいた。
後ろ姿しか知らなかったけど、こんな特徴的な髪色をしている兄弟を私は他に知らない。
祖母が微笑みながら椅子に座ってあの兄弟に話しかけていた(…知り合い?)

「よく来たねぇ、征十郎くんにテツヤくんだったかのぉ?」

話しかけられた兄弟はぱちくりお互いに顔を見合わせて首を傾げていた。

「あの…どこかであいましたか?」
少したどたどしいけどちゃんと敬語を使えてるお兄ちゃんとそのお兄ちゃんに引っ付いたまま離れない弟。
きっと、先程中途半端に先に行かれたことを根にもっているのかもしれない。

「あぁ、あんたらのママがよく話とったよぉ。私の家には可愛い子供が二人おるってなぁ…」
その言葉を聞いたときに、兄弟が何故がうるうるし始めた。
でもすぐ口をぎゅっと堅く結んで我慢していた。
「おかあさんとしりあいのかた、だったんですね。わかった、じゃなくてわかりました」

少し、素が出かけたように見えたが、なんとか持ち直したお兄ちゃん。(セーフ!)
お兄ちゃんはもふもふの服から小さなメモを取り出して探し始めた。
弟君の方も、「しぇいくは?しぇいくは?」と言いながら探し始めた。
(雑貨屋にシェイクは置いてないぞ…?)

お兄ちゃんの方はすぐ、冷えぴたやらアイス、ポカリを持ってレジへ歩いて行ったが、弟君の方はアイスコーナーでシェイクをずっと探していた。
私の真ん前にあるテレビが何かを言っているが話が頭に入らなかった。(あんなに楽しみにしてたのにだ)
それもこれもこの兄弟が可愛すぎるのが全ての要因だ。

もふもふに癒される年頃なのである。



私がもふもふに癒されているころ、レジに品物を置けないという衝撃の事実に気づいたお兄ちゃんが、背伸びしたりジャンプしたりして奮闘していた。
何時の間にか、お兄ちゃんの隣に来ていた弟君が「しぇいくないです。おにぃちゃん。しぇいく…」とうるうるしていた。

「ちょっと貸してごらんよ。…よいっしょ」

祖母がお兄ちゃんの手に持っていた品物をレジへと持ち上げた。
こう見えて私の祖母はとんでもなく元気なのである。バリバリ現役だ。(正直言うと私より元気かもしれない)
それを見たお兄ちゃんは目をまんまるにしていた。
あれだけ「しぇいく」と言っていた弟君までもが。

まあ、見た目は90歳いってそうなおばあちゃんだもんな、と遠い目をしながら私は思う。

はっ、と我に返ったお兄ちゃんが慌てて財布を探す。真似をするように弟君も探していた。(何でも真似したがる年頃なのか)

「んー、お会計は…420円…425円?」(疑問符付けちゃ駄目でしょおばあちゃん!)

財布を探し当てたお兄ちゃんはその額を聞いて顔を青くしていた。
小さく漏れた言葉が「5えん…たりない…」…ことの全てを物語っていた。(そういうことって良くある)
真っ青は顔をする兄の裾を引っ張る弟。
その手には1億円札(子供用)が握られていた。

はいっ、と純真な笑みで渡す弟君には癒されるがそれはキッズ用。ここはアダルト用の金が必要なんだ…。
同じようなことをお兄ちゃんも思っているのかと思いきや、その手があったかと言わんばかりの満面の笑みでその一億円札を受けとっていた。(え…?)
ぴょこんぴょこんと跳ねながらお金を置くお兄ちゃん。
どこかやりきった顔をしていた。
祖母はそんな二人を微笑ましそうに見ながら一億円札と420円を受け取った。そして袋に入った品物を兄弟に渡す。

おっとと、とこけかけたが、何とか体勢を持ち直し、二人で仲良く帰って行った。


去り際にかけられた「また、いらっしゃいね」という祖母の言葉に「うん、またあしたきます」「また、くる?きます?」と返していたから明日も来るのだろう。





兄弟が行った後にちゃんと、あの時のお会計を数えてみると「420円」だった。…おばあちゃん。










おしまい。

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