黒子のバスケ 小説

□喋れない黒子と不器用な緑間の休日
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「黒子、何かあったのか?」
図書館のためか音自体は控えめながら、その声は意志の強いはっきりとしたもので曖昧にごまかすことを許さない。
鋭い視線に射抜かれた黒子は沈黙を保ったまま。辺りにはピリピリとした空気が漂い始めた。
その状態が永遠続くように思われたが、それは緑間の深い溜息によってあっけなく崩れ去った。

「…いや、やっぱり話したくないのなら別に構わないのだよ」
意外なまでにあっさりと折れた緑間を黒子がいつも変わらぬ無表情のまま見つめる。
それは(あくまでも緑間としては)黒子なりの驚いた、という感情の表れなのだ。(…文字でないとわかりにくいのだよ)

緑間は黒子の額に手を軽く置き、髪をくしゃくしゃと軽くかきまわした。
黒子は自分の頭が寝起きの髪型に近くなるのを感じて頭を振った。
【やめてください、縮んじゃいます】
「この程度で縮むわけないのだよ、馬鹿め」
黒子から制止の声(実際には紙だが)が上がるが、構わず緑間は撫で続けた。


まるで先程の仕返しのように。黒子を励ますように。















図書館を後にした二人は、その後ぶらりとお互い無言のまま特に当てもなく歩いていたのだが。
黒子が途中目にしたストリートバスケ、略してストバスが気になって仕方が無いようで先程から何度も後ろを向いては緑間の視線に気づくとすぐ前を向きなおすことを繰り返していた。

(行きたいなら行きたいって言えばいいのだよ…)
流石にそこまであからさまな行動をされて気づかない人などいないだろう。
緑間は黒子に見えない位置で苦笑を漏らすと誘いの言葉を口にした。

「そんなに気になるのなら行けばいいのだよ」

緑間が指を指した先はストバスの方向で、察しは悪くない黒子が緑間の手を引いて走り出したのはそれから数秒もたたない内のことだった。流石青峰も認めるバスケ馬鹿である。


その黒子の足が途中でピタリと止まった。
息切れかと思いきや、呼吸は特に乱れてはいない。緑間は紙に何かを書き込む黒子の手元を見ていた。
【バスケットボール持ってくるの、すっかり忘れてました。】
いつもよりがたがたの文字が黒子の動揺をハッキリと伝えていた。(忘れたも何も元々バスケをする予定は無かったのだよ)緑間は思わず内心でツッコミを入れる。
だが、忘れてはいないだろうか?


おは朝という名の占い番組を。


緑間は手に持っていたバッグからバスケットボールを一つ取り出した。
言わずもがな、今日のラッキーアイテムである。
【…おは朝、とんでもないですね】
「当たり前なのだよ」
おは朝の占いは本当によく当たる。緑間は今日もまた信仰心を+1上げた。
緑間は祈りのポーズをとりかけるが、黒子が緑間のラッキーアイテムを持ってまたダッシュし始めたのを見て、慌てて黒子を追いかけた。


「何で持って行ったのだよぉおおお!」

















ぜえ、はあ、と呼吸を整えながらストバスへと走る黒子。

だがストバスまで後20メートルも無い距離まで来たところでピタリとその足を止めた。
今になって汗が風に吹かれて蒸発し、体が冷える。
体が冷えるのに伴い頭も冷えて行った。


…赤司、君?


 
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