黒子のバスケ 小説

□赤司
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———――黒子が亡くなった日から、赤司は目に見えて人との接触を避けるようになったのだよ。

緑間は友人の異常に確かに気が付いていた。




———――それ以外に特に変化はないがな。




(一番大きな変化を見逃してはいたが。)







*****





赤司は地面に這いつくばって怯える少年を見下ろした。
呼吸は小刻みに震え、眼は限界まで開かれている。
赤司は冷めた目でそれを観察していた。

(—————…また、失敗か。)
少年を拾ったのは、容姿が黒子テツヤによく似ていたからだった。それだというのに。
少年の表情はよく変わった、口調も異なる。赤司は徹底的に少年の人格改造を施した。

結果は…。
一人目は、感情を全て失った。…失敗だ。
二人目は、狂ったように暴れだした。…これも失敗。
三人目は、四人目は、五人目は。数えるのも面倒になった今日。
少年は赤司の存在を否定した。
恐怖しか反応を返さなくなった。撫でても、叩いても、何をしても。…何もしなくても。

失敗だった。失敗失敗失敗、失敗の繰り返し。
赤司は少年を前の物と同じように処分することに決めた。部下を数人呼びつけて、何時も通りの作業を開始する。
感情が振り切ったのか、それとも終わりを悟ったのか。

…誰かの名を呼んで泣き叫ぶ少年は、赤司にとって思い出したくもない過去を呼び起こすこととなった。


時は数年前に遡る———…。



*****



『…テツ、ヤ…?』

何か嫌な予感がして赤司は、珍しく同僚と飲み会をするらしい黒子がいる方向へ視線を向けた。
そこにはただ、窓から街並みが見渡せるだけであり、黒子の姿など見えるはずもなかったのだが窓枠に手を置き、虚空を見つめた。
片手に握られた携帯電話の画面には『今から』と題名のみ表示されたメールがあった。
突然着信画面へと変わる。

着信音が静かな部屋に鳴り響く中、拭いようもない悪寒を感じながら通話ボタンを押した。



『――――――――———————…』




*****



手から走る電流のような鋭い痛みが赤司の意識を過去引き戻した。
掌には強く握りしめていたせいで、爪が突き刺さっており、鮮血がポタリ、ポタリと落ちていく。

赤司は鮮血が彩ったカーペットを無表情で眺めていた。




近くにあった椅子に腰を下ろすと赤司は、無人の部屋でぼんやりと虚空を見つめた。
突然閉めきった室内に風が吹き抜ける。

風が止むと、部屋の中央に黒いマントを深く被った人物が佇んでいた。
赤司は異常事態にも関わらず、黒マントの人物をちらりと一瞥しただけで興味無さげに視線を反らした。
赤司は例え、黒マントの人物が己を殺そうとする人物だとしても全く同じ反応を返すだろう。それほど今の赤司は他人に対しての感情が薄かった。…己の命でさえも、最早赤司にとっては他人と同意語だった。
赤司にとって一番大切なのは黒子テツヤであった。…その前に大切だったのは勝利。

だが、それはたった一度の敗北で脆くも崩れ去る。(修復不可能な程に)
そしてその敗北を与えた人物こそが、黒子テツヤだった。
赤司は勝利という絶対的観念を失い酷く不安定な状態にあった。依存する何かを必要としていた。
だから依存した。
黒子テツヤという存在に。

けれど、依存という名の盲信は赤司の眼を曇らせた。





壊れることなどないと思っていた。(そんな筈がないのに)




居ないならないと盲目に信じた。(一度離れているのに)





死がこうも呆気なく大切なものを連れ去るなど、考えもしていなかった。


赤司は情報として『死』を理解できても、感情として納得することは出来なかった。死体の存在しない事故だった為に尚更。
赤司は黒子が死んだ、という話を伝え聞いても悲しい、辛いとは感じなかった。理解出来ないのに感じる筈もなかったからだ。

だが、唯一赤司が黒子の死を身近に感じる瞬間がある。
——それは、知人と会うときだ。
黒子を知っている人なら尚更。
赤司はそれを感じたくは無かった。黒子の死も、悲しみも、怒りも、喜びさえも、感じたくは無かった。
壊れてしまいそうになるから。…とっくに己が壊れていることに気付くことすら出来なかった。
その思いが、赤司の感情の起伏を無くしていく。(無意識にその姿は亡き人に近くなっていった)
「……過去へ」
ここに来て初めて黒マントの人物が口を開いた。『過去』という言葉に釣られ、顔を少しだけ上げる。
甦るのは、都合のいいの記憶ばかり。黒マントの人物がゆるりと笑った。



「…過去へ戻して差し上げましょうか」

続けられた言葉は、甦った記憶と同じく都合のいい物で。
思わず手を伸ばしそうになる。
悪戯かもしれない。過去へ、何て信じられるか。
こんな取引が相手に利益があるとは思えない。そう無感情な僕が言う。

黒子に会いたい。偽物(レプリカ)じゃない。テツヤに。早く。

会いたい

そう、過去に置いてきた感情が叫んだ。


「……代価は何だ」
気がつくと赤司はそう口にしていた。
沸き上がる思いを押さえ込むように出した声。微かに黒マントの人物が息を飲む気配を感じた。

「…お代は結構です。…ですが、…し…、…な……、ぃ…」
黒マントの人物が言葉を紡ぎながら、深く被っていたフードを上げる。
聞こえていた言葉が途切れ途切れになっていくが、黒マントの人物の口元は動いたままだ。つまり、言葉が途切れた訳ではない。
赤司は呆然と黒マントの人物を見た。
全神経はひたすらに視覚に注がれ、他の感覚は無くなっていた。


素顔を表した黒マントの人物———黒子テツヤによく似た人物が赤司の額に軽く口付けを落とす。


直後視界は淡く光り、赤司は帝光中学校にいた。















(捕まえた鳥は逃がさない)


待ってて、テツヤ。
二度と離さないから。




赤司は狂気の宿る瞳で、優しく微笑んだ。





end





















【後書き】

監禁コースまっしぐら
かなり時間がかかるとは思いますが第三者視点を、作成するつもりなのでよかったら見てください。

ありがとうございました!!

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