黒子のバスケ 小説
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「約束通り、また来たのだよ」
そう言うと黒子は目を見開いた。口を何度か閉開して、小さく息を吐いた。
「…本当に来るなんて」
物好きな人ですね、と黒子は儚げに微笑んだ。
それが緑間には、まるで―来るなんて思っても見なかった―と言われているかの様に思えて歯痒かった。
「約束は守る主義なのだよ」
緑間にとっては、約束も、バスケも…それこそ何にでも、人事は尽くすべきであると思っている。
「…約束、じゃないです」
黒子は唇を噛み、首を横に振った。
「…。何故、そこまで頑なに拒絶するのだよ」
疑問だった。
異端だから、と黒子は言ったが、どうもそれだけとは思えない程、黒子の眼は暗い哀しみに満ちている見えた。
「…緑間さんが、初めてじゃ、ないんです」
ぽつり、語りだす。
何時の間に包帯が外れたのか、翡翠色に反射する鱗を隠すように腕を掻き抱く黒子。
「前に、もう一人いたんです――…」
苦悩の、一端を――…。
***
世間から隔離された研究所。
その中の一室で、黒子と緑間が映された監視カメラの映像を、眺める人物がいた。
「――…」
映像を指で軽く叩きながら、嘲笑う様にゆっくりと頬を吊り上げる。
「―――…僕から逃げられると思ってるの?」
ねぇ、テツヤ…?
***
この場所に迷い混む人は少ないですが、いないわけでは無いんです。
大半が僕に気付かずに立ち去りますが、中には気付く人も居ました。
…彼もその一人でした。
フェンス越しにでしたが、彼は外の色んな話をしてくれました。
彼の話を聞いている内に、何時しか僕は外に出たいと思うようになっていました。
彼は僕がそう思っているのを伝えると、とても喜んでくれました…。
フェンスに子供一人分ほどの穴をペンチで開けて、外で二人で遊びました。楽しかった。本当に、楽しかったんです。
―また明日遊ぼう、そう言ってその時は別れました。
――…次の日、彼は来ませんでした。
何時まで経っても。
何時まで待っても、彼の姿が見えることはありませんでした。
だから、緑間さん…僕はこの場所から出たら駄目なんです。
あの人が僕に、そう言った様に…。
…緑間には、黒子の白い首に絡み付いく鎖がその時、確かに見えた。