東京喰種

□塩と砂刀
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*グロ注意








亜門が金木が捕らえられている五棟の裏に着くと、中には血塗れ姿の金木が佇んでいた。

根本から真っ白になった髪にも血が飛んでいる。その大半が返り血だった。

「…亜門さん」
遅いじゃないですか、悲しそうに金木が微笑んだ。


***

時は数刻遡るーー…。


「トビズムカデ…って知ってる?日本じゃ最大クラスのムカデだ。大きいのは二十センチ以上にもなる」
ヤモリは生きたムカデを指で摘まみながらそう言った。
…トビズムカデ。金木は何処かの本でその名を聞いたことがあった。
顎肢に猛毒のある、オオムカデ科の一種で日本最大級の大きさを誇る。
もし噛まれれば早急に病院に行かなければいけない毒虫。
つらつらと、無意識に情報が出てくる。
それをどこかに噛ませるつもりなのだろうかと、金木は半ば諦めながら考えた。

だが…
「コイツを君の耳に入れてみたいんだけどいいね?」
ーー現実はそれの比ではなかった。

度重なる拷問に精神が麻痺し始めていた金木だが、一気に血の気が引く。恐怖が体を支配する。

「やめて…ください…」
ペンチで指を捻切られた時にさえ出てこなかった、弱々しい懇願が金木の口から漏れでた。
だが、それすらもヤモリを楽しませる"スパイス"にしかならなかった。
「…やだ…いやだ…っ」
金木はこれ以上無いほど必死でもがいた…つもりだった。
実際は拘束のせいで軽く身をよじることしか出来ず、逃げられる訳がなかったが。
百足を入れた耳をガムテープで塞がれる。
「無理」「嫌だ」「やめて」「あぁあああああ」
譫言のように幾つもの言葉が口から落ちた。
ゴソゴソと耳の中を百足が這う。その猛毒を持った顎肢で鼓膜を破った。
脳内を百足が喰い荒らされている気がした。痛い。熱い。熱いのに震えるほど寒い。
視界が白く、赤くあかくあかあかあああああああああああああ…!!!

「たすけて…ーーさん」


遠くで笑い声が聞こえた。
ーー僕だった。



***

気が狂うかと思う苦痛の中、金木は喰種『大喰い』であり、金木にとって全ての始まりとも言えるリゼの幻を見た。

「大事な人も失ってしまうかもね」

「自分のせいで」
リゼは金木を憐れむように、何も知らない無知な幼子を嘲るように微笑した。


***



「君は肉体も…意外と精神もタフだ」
ムカデが耳の中で動かなくなったころにヤモリはまたやって来た。

「こんなことなら、あの喰種捜査官も連れてくれば良かったかな?」
金木の、表面張力によってギリギリの均衡を保っていた器に、最後の水滴が落ちた。

ーー容赦しない


ーー僕の居場所を奪う奴は

ーー僕の平穏を脅かす奴なら誰でも

ーー珈琲豆のハンドビックと同じ
ーーより良い一杯の為にクズ豆は摘まないと


(弱者は喰われ、強者が喰うと言うならば)

(弱い僕はいらない)


ーー僕は、『喰種』だ








「亜門さんの敵は、摘まなきゃ」

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