黒子のバスケ 小説

□黄瀬編
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いつも通りの朝練風景。
だが、いつもと何かが違う気がした黒子は内心首を傾げながら、ぽつりと呟いた。

「…皆さんどうしたんでしょうか」

独り言としてその呟きは空気に溶ける筈だったが、後ろから来た黄瀬が拾った。
黄瀬は元気そうに見えたが、伊達に人間観察を趣味といっているわけではない黒子はどこか黄瀬が無理をしているような雰囲気を感じていた。
「おはようッス!どうしたんっすか?なんか悩んでるみたいっすけど・・・」
心底心配そうに問うてくる黄瀬に黒子が最近よく思っていたことを口にする。
「おはようございます。最近皆さん調子がでてないみたいで気になったんです。黄瀬くんは何かあったんですか?」
その問いを聞いた黄瀬が、一瞬笑みを崩した。
そして口だけで笑みを浮かべて、やっぱ黒子っちには叶わねーッスわと呟いた。そして今まで一人で抱え込んできた悩みを、本音を黒子に語りだす。
目線を下に落としながら、今まで溜めてきたものを吐露するように。

「……実はオレ言われたんッスよ。事務所の社長にバスケかモデルお前はどっちが大事かって…そんなこと急に言われて…オレどっちも好きなんっすよ…どっちか何か選べないっす」
困ったように目尻を下げて言う黄瀬に、黒子は下手なフォローではなく、正直な感想を口にする。

「そんなことがあったんですね…‥‥僕には大事なものはバスケだけですから黄瀬君の気持ちはわかりませんが…」
「こんなに楽しめたスポーツはバスケだけなんッスよ!でもモデルも大変だけどやりがいがあるんッス!」
黄瀬はバスケとモデル、その両方に板挟みにされているのだ。黒子には経験したことのないその辛さ。だが、想像することが出来ないわけじゃない。
「黄瀬くん………
今すぐ答えなんて出ませんどっちも大好きなんだって言ったらいいじゃないですか!それでも…それでも答えを出さないといけないんでしたら話を聞きます。そして一緒に考えましょう」

そう言って黒子はふんわりと微笑んだ。
「でも…オレには選べないっすよ…どっちかなんて………」
「黄瀬くん、僕たちはまだ学生です!これからまだ時間がたくさんあるじゃないですか!キミにとって大事なことなんですからもっと時間をかけて考えてください。」
「黒子っち……ありがとうッス!これからゆっくり考えていくッス!なんか、すっきりしたッス」
満面の笑みを浮かべる黄瀬に黒子は内心安堵の息を吐いた。
――彼には笑顔がよく似合う。
「良かったです…」
…本当に、良かった。
「なんかすっきりしたらバスケしたくなってきたッス!」
絶対今日こそ青峰っちに勝つッス!と叫びながら黄瀬は体育館の天井に向かってガッツポーズをした。
黒子はその姿に苦笑しながら更衣室へ歩いていく。
「それじゃあ行きましょうか、部活」
「はいッス!!」

黄瀬は元気よく返事し、黒子の後を追いかけた。



彼の顔に浮かぶ心からの笑みが、また曇ることの無いように…。





黒子はただ、願った。

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