黒子のバスケ 小説

□緑間編
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黒子が黄瀬の悩みを聞いてから、数日の日が過ぎた。

今日も強豪校である帝光中学では部活があり、まだ始まる前であるが徐々に人が集まり始めている。
黒子は重そうな鞄を手に持ち体育館へ入っていった。

「黒子っち〜!朝ぶりっす!」
「朝ぶりです。黄瀬くん」
テンション高く、黒子の背中に抱きついたのは言わずもがな黄瀬であったが、黒子は体育館で黙々とシュートを打ち続ける緑間を見つめていた。その視線につられるように黄瀬も緑間の方を見る。
そしてぽつりと呟いた。
「緑間っち最近入らないっすね…‥」
「そうですね…」
その言葉に黒子も同意する。
最近の緑間は調子が悪い。どこか思い詰めたようにバスケをしているようだった。

そう、まるで数日前の黄瀬のように――…

「…オレ着替えて来るっす」
黄瀬はそんな緑間から目をそらし、更衣室へと入っていった。
黒子は一人中々入らないシュートを打ち続ける緑間の元へ走っていく。
そしてどこか苛々した様子の緑間に話しかけた。
「緑間くん最近入りませんね…」
「黒子!?いつからいたのだよ」
びくっと驚いたように肩を上げる緑間の手から放たれたボールは弧を描き、ゴールにガコンとぶつかる。だが、入らない。
「ついさっきからです。…緑間くん何か理由があるんじゃないですか?」

真っ直ぐに緑間を見る黒子に、緑間は辺りに散らばる人を一瞥すると
「…ちゃんと話すからちょっとついて来てほしい」
小声でそう言った。そして緑間は黒子の手をひくと体育裏まで連れ出した。
「どうしたんですか?緑間くん」
黒子が何故体育館に?というような目で緑間を見る。
緑間は、あまり人には聞かれたくない話なのだよ、と言うと静かに緑間にとって恩人とも言うべき人の話をしはじめた。
「……オレにはバスケが好きなおばあちゃんがいたのだよ。おばあちゃんはオレにバスケを教えてくれた人なのだよ。」
そう話す緑間の瞳はいつもより優しい目をしていた。
「じゃあその人がいなければ今の緑間くんはいなかったのですね」
「あぁ、そういうことになるのだよ」
「それで、今そのおばあさんはどこにいるのですか?」
「……彼女は3週間前に死んだのだよ」
「オレは今まで彼女のためにバスケをやってきた。彼女はオレのことをすごく可愛がってくれて試合で勝てば喜んでくれたのだよ
少しでも彼女に喜んで欲しくて、お返しがしたくてオレはバスケで勝ち続けた。だが…彼女はもういない!!もっとたくさんのことをしてあげたかったのに…もう何もしてあげることが出来ないのだよ…‥」
後悔。緑間は後悔しているのだ。
好きだった祖母に、何もしてあげられ無かったことを。
優しいのだろう。不器用な彼なりの優しさはきっと中々人には気づかれにくい。
黒子は、でもそうじゃないと思う。

きっと彼女は緑間に――…

「緑間くん……僕はそのおばあさんにはもちろん会ったことはありません。でも彼女が一番みたいことがなにかわかる気がします。」「なっ!」
「彼女は緑間くん貴方に楽しんでバスケをしてほしい、とそう思っていると僕は思います。」
「なんで…なんでそんなことお前にわかるんだ!!」
「確信はありません…でも本当にバスケが好きだったのなら貴方に愛する貴方にそれを楽しんでほしいと思っていると思います。彼女のためじゃなく自分のために…」
はっとした目で緑間が黒子を見る。
そしてばつの悪そうに目線を少しそらすと緑間は一つの決意を固める。
「黒子…そんなこと言っていた気がするのだよ。今はまだ彼女のためかもしれないがいつか胸を張って自分のためって言えるようにしたい…いやなるのだよ!」
「えぇ、言えますよ緑間くんなら!」
「あの黒子…ありがとうなのだよ…‥」
照れくさそうにそっぽを向きながら感謝を述べる。
「いえ僕は思ったことを言っただけですから…戻りましょうか」
「あぁ」
どこか思い詰めたような顔をしていた緑間だったが、今の表情は明るい。
「黒子っち〜!と緑間っち!?珍しい組み合わせっすね!」
走ってきた黄瀬が驚いたように声を上げる。

「そうですかね…でなんか用があったんじゃないんですか?」
「あぁそうだったっす!そろそろ部活始めるんで探してこいって言われたんっすよ」
「そうですか、じゃあ急ぎましょうか」
淡く黒子が微笑むと、
「はいっす!」
「あぁ」
と緑間と黄瀬の二人が頷いて、笑った。

彼らには笑って欲しい。 そう思いながら今日も黒子は部活に励む。



それが、僕にとっての――…

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