黒子のバスケ 小説

□紫原編
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部活が終わり、帰る支度をする黒子を紫原が呼び止めた。
「黒ち〜ん今日暇?ちょっと話がしたいんだ」
「ええ、今日なら大丈夫ですよ。」
特に帰ってから特別することも無かった黒子が快く承諾する。
その返事を聞いて、紫原は安心したようにゆるく笑った、
「よかった〜じゃあ校門の前で待ってるね〜」
そう言い、手を降りながら紫原は先に校門へと歩いていった。その黒子は見送ると、慌てて支度を再開した。
――何の話をするのでしょうか、と内心首を傾げながら。



支度を終えた黒子が校門付近へと行くと、人より頭一つ二つほど大きな人が見え、声をかけた。
「お待たせしました。あの…どこに行くつもりですか?」
そう問う黒子を紫原はちらりと見ると、また前を向いて間延びした声で呟いた。
「行けばわかるよ〜」
間延びした声の中に、いつもと違う感情が込められていたことに黒子は気づいていた。だが、何も言わず、目的地まで二人で歩いていった。

十分ほど歩いて着いた先は…
「公園ですか…?」
「うん、そう」
公園だった。人っ子一人おらず、随分と寂しげにブランドがきぃきぃと軋んで揺れていた。それを無感動な目で見る紫原を見て黒子が呟いた。
「何かあったんですか?いつもの紫原くんらしくないですよ」
一瞬、紫原の瞳が揺れた。
それから暫く無言と静寂が辺りを包むが、紫原が日が徐々に沈む空を見つめて、話し出した。
「…ねぇ黒ちんなんで黒ちんはバスケしてるの?オレわかんないなんでバスケしてるのか」
心底わからないと言った目で黒子を見つめる紫原。
黒子は虚をつかれたように、目を見開く。
「えっ!?…そうですね…僕は楽しいからですかね…他にたいした理由なんてありません。」
少々考えながら呟かれた言葉に紫原は小さく息を吐く。

「オレわかんないよ、青ちんが強いヤツを欲しがる意味が弱いヤツが頑張って練習する意味がそれに黒ちんがバスケを楽しめるわけが…」
理解出来ない。共感できない。わからない。その全てに彼は苦しんでいた。疲弊していた。
そしてそれを黒子が共感できないことも知っていた。
「…楽しいものに理由なんて普通ないんじゃないですか。ただバスケが楽しいからもっとうまくなりたいって思うだけですし、楽しくないものを死にそうになってまで練習しません。それだけじゃないでしょう。」
スレ違う二人。理解出来ない苦しみ。例え、想像したところで完全に相手を理解することなど、ありえないのだ。
「なにが〜?」
「別に今までこんなこと聞いて来たことなかったじゃないですか」
紫原が、苦々しい表情でその問いに答えた。
「……母さんがバスケ別に楽しくないんならやめろって…これからプロになれるかわかんないしケガしたら他のことも出来なくなる」
わかりあえない二人。
「…紫原くんはどうしたいんですか?これからも僕たちとバスケがしたいんですか、…それとも違ったことをしたいんですか」
ただ――――…
「わかんない。だってオレ才能のないヤツはバスケなんてするものじゃないって教えられてそういうものなんだって思った。でもね、でも…オレみんなと一緒にいたい。」

「紫原くんのこれからのことなんで僕が決めることはできませんが、僕は紫原くんと一緒に皆でバスケを楽しみたいです」
「黒ちん…オレ、オレみんなと一緒にバスケしたい!バスケを楽しみたい」
ただ、皆とバスケがしたい。その思いだけが二人を繋げた。
重なった。理解することが出来た。
それで充分なのだ。

「そうですか。よかったです。明日からまた頑張りましょうね!」
「うん!」
「じゃあ帰りましょうか」
「うん〜今日はありがとうね〜バイバーイ」
手を振り合う紫原と黒子。何でもない日常。かけがえのない日常。
「いえ、また明日」

たった一つ相手のことを理解して、許容さえ出来れば。
また、二人は笑い合えるのだ。

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