黒子のバスケ 小説

□後編
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それは、その言葉は賭けだった。
赤司が記憶を思い出すべきか否かの。
黒子なりの賭けだったのだ。

――結果は、否。
赤司の酷く苦しそうな今にも泣きだしそうな表情を見て、記憶が無いからこそ今の赤司があり、過去は不必要なものなのだと唐突に、けれどはっきりと黒子は理解した。
――わかってはいたんですけどね…。
寂しさが無いとは言わない。だが、思い出すことによって赤司が苦しむというなら、こんな思いは心の底にでも押し込めておけばいいだけの話だ。もう、赤司が苦しむところは見たくない。

――今度はボクも君も完全に壊れてしまいますよ。だから、ねえ…赤司君……征…君…。

思い出しちゃ駄目なんです。





手にした記憶が勝手に崩れていく。
どれだけ手を伸ばしても届かないその距離。
僕の声は、手は、思いは、どうすれば――に届くのだろうか。

お願いだ。
どうか今手にいれたこの欠片だけは消えないで欲しい。

どうして記憶を無くしたのか、理解出来ない己が憎かった。

――僕は過去を思い出して何がしたいのだろうな。
自嘲気味にそう呟くが、結局答えは見つからなかった。そして見つける気も本当は無かった。
何故なら、答えを持っていないから。






肩を強く揺さぶられて漸く赤司の意識は、はっきりと現実に戻ってきた。
眼前にはいつも通り無表情な黒子がそこにいて、赤司の顔を覗き込んでいた。
突然目の前に黒子の顔があった為に、一瞬赤司は驚くがそのすぐ後に気まずそうに目線を逸らした。
「…すまない、少し疲れているみたいだ」
取り繕うように赤司がそう呟く。黒子は地面に、そうですか、と書く。
もし、この字を緑間あたりが見たのなら、その文字に含まれた感情に気付いたのであろう。
当たり前だが、赤司は緑間ではないし、赤司自身も今は己のことに必死で相手の感情を見切るほどの余裕は無かった。
もしも、この文字に含まれた感情に赤司が気づいていたらもっと話は円満に解決したのであろう。

だがそれは結局の所【if】の話である。




黒子は、赤司は随分自分の感情を隠すのが上手くなったと驚き、そして少し悲しげに心中で思った。
今もそうだ。浮かんだ感情が表に出る前に蓋をして、そこに別の感情を塗り付けていた。
――苦しくはないんですか。
――辛くは無いのですか。
そう問いたくても、黒子には声もほんの少しの勇気も無かった。
そして、その言葉は感情を過去に置いてきた黒子が言うべき台詞ではないことを知っていた。


いつまでも休憩しているわけにはいかない、と服についた砂を払い落としながら黒子が立ち上がろうとしたが、その手首を赤司が掴んだことによってその作業は強制的に中断される。
そして赤司は今まで感じていた疑念を震える声で口にした。
「黒子…教えてくれ…僕達は昔、どこかで会ったことはないか?」
「……っ…!」
黒子がふるふると首を横に振る。「本当、か?」とやっと声になった言葉には、半信半疑といった気持ちが表れていた。
――…違った、のか…
赤司は誤魔化すように作った笑みを出来るだけ自然に張り付けた。それが黒子を更に追いつめるとも知らずに。
「…そうか…すまない、おかしな事を聞いたな」


そう言って赤司は黒子の腕を離した。
憂いを帯びた赤司に、黒子は嘘をついた後ろめたさを感じる。だが、後悔はしていなかった。
事実が全て良い物とは限らないから。きっと知らない方が良いものだから。

赤司に掴まれた手が妙に熱かったけれど、それは恋と呼べるほどお綺麗なものでは無くエゴイストな己が生み出した幻想に過ぎないのだと黒子は自嘲気味に息を吐いた。























あとがき。

この調子では赤司さんが記憶を思い出す日はいつになるのか…。(というかこの話の赤司様全くチートじゃない…。チートな予定だったのに。)
ちょいちょい思い出してはいくんでしょうけども。
妨害されまくってますからね。過去の自分とか黒子っちとかに。

そこらへんはおかんなみどりんがなんとかしてくれるでしょう。たぶん。きっと。


今、高黒で逆行ネタを考えてたんですけど…
一人だと何ともないのに二人揃うと逆行しちゃう高黒ってないですか?
最初はただの友人だけど、逆行した先で色々あって吊り橋効果で恋人になる高黒が欲しい!
それからも度々逆行したりパラレルワールドに行ったりしてたら良いよね!!
では、探して来ます!


続きは…需要と時間さえあればまた書きますからっ!!\(◎o◎)/!赤黒!高黒読みたい!!

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