LivE(本)

□第零 始まり
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―見慣れた花…。

―見慣れた景色…。

―見慣れた病室…。



わたしの枕元には、顔をグシャグシャにして涙を流す母。

そして、眉を下げてわたしを見つめる白衣を着た先生。



『どうしたの?』と、訪ねて見ようとした…けど…声が出ない

体を起き上がらせようとしてみたけど…体が動かない…

指先一本さえも動かない

動くのは目だけ…。



どうして…?





……………。





あぁ…そっか……わたし…死ぬんだ。


だから、こんなに二人とも悲しそうな顔をしているんだ。



お母さん、そんなに泣かないでよ

大丈夫。

自分の体のことは、自分が一番よくわかっているから…。



今まで、迷惑ばかりかけてごめんね。大変だったよね…。

こんな、わたしを…たった一人で育ててきてくれてありがとう。







ふと、わたしの頭の中に、今までの記憶が蘇ってきた


幼い頃から

今まで…。


これが、『そうまとう』っていうのかな…


……ちっぽけな『そうまとう』だなぁ。





呼吸器に繋がれ

たくさんの管に繋がれ

もはや自分が人間なのかも、わからなくなってしまいそうなこの状態。


わたしは、ほんの少しだけ目を潜めた


あーあ

もう、終わっちゃうんだ…。


どうせなら…

どうせなら…野原を、思いっきり走ってみたかったな…。

「学校」に、行ってみたかったな…。

雪を…「はだ」で感じてみたかったな…。

一度でいいから、街でショッピングをしてみたかったな…。

友達というものを…つくってみたかったな…。

恋…というものを…してみたかった…な……。










…………。












や…だっ…な…。


まだ…生きていたかったな…

やり残したこと…たくさん…あったのにな…。





ねぇ…やだよ……やだ…死にたく…ないよ……

嫌だよ…嫌だよ


まだ…まだっ………



目から、一粒の涙が流れ落ちた。


「ハル…?ハルっ!!ハル!!!」


お母さんの必死にわたしの名を叫ぶ声が聞こえる



だんだんと薄れていく視界と意識



―もし、人生最初で最後の我が儘を言うとしたら…。












もっと






生きていたかった――………































そこで、プツリとわたしの意識は途切れた














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