薄桜鬼|short
□悪態吐くのも好きのうち
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たまに見かける屯所に出入りする女性。
誰とどういう関係なのかは私の知るところではないし、詮索する気もないけど、とても綺麗な人で、私はどうしてもその美人を目で追ってしまっていた。
「何してるの?郁ちゃん」
「あっ、へっ、いえ、なんでもありません」
物陰からこっそり覗いていると、背後から突然沖田さんに声をかけられ、恥ずかしくも素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あぁ…あの人…綺麗だね」
後姿まで美しいその人に沖田さんは然程興味を示さなかったが、それでも沖田さんもああいう女性を綺麗と思うことを知ると、チクリと胸が痛んだ。
「それにしても、覗き見なんて悪趣味だね」
「のっ、覗き見って、そんなんじゃないです!綺麗な人だなと思って見ていただけですっ!」
すると沖田さんは私を頭から爪先までじっくり舐め回すような視線を向けて、意地悪そうに口元を歪めた。
「そうだね郁ちゃんは、ちんちくりんだし、まな板だし、男の恰好してるし…とてもじゃないけど、女らしいって感じはしないよね」
「………!!」
文字通り私は絶句した。
自分でも十分すぎるほど分っているけど、そこまで率直に面と向かって言わなくても…
「酷いです、沖田さん…」
好きな人に浴びせられた痛烈な一言。
思わず目尻に涙が浮かぶ。
けれど、そんな私を見ても沖田さんは軽く笑うだけ。
「あははっ、別に泣くことなんかないよ」
すると沖田さんはそっと私の背中を抱きしめて耳元に唇を寄せて囁いた。
「郁ちゃんが、すごく女らしく僕に善がるのを知ってるからいいの。あんな綺麗な姿、他の人になんか教えたくないね」
その言葉と吐息がとても熱くて、私は沖田さんの腕の中で顔から耳の先まで真赤にしていた。
「ちょっと…沖田さん…」
「郁ちゃんのあの姿ときたら、他のどんな女だって太刀打ちできないよ」
抱きしめられた腕に力が入った。
もう立っているのが精いっぱい。
恥ずかしくてこんな真赤な顔見られたくない。
「小柄なところは僕好みなんだよねー。それに袴を脱がせて着物を剥げばちゃんと女の身体だし、その扁平な胸だって僕がちゃんと大きくしてあげるから大丈夫」
言うや否や、沖田さんの掌が胸元へと忍び寄る。
――― パチッ!!
その掌めがけてすかさず私の平手が飛んだ。
「何してるんですかっ!?」
「せっかく大きくしてあげようと思ったのに」
悪びれもせず、子供のように唇を尖らせて拗ねるような顔をする沖田さんにはほとほと呆れる。
「もぅ、時と場所を考えてくださいっ!!」
「ふーん、じゃぁ時と場所を考えて、夜になったら郁ちゃんの部屋まで行くから待っててね」
ひらひらと手を振りながら去る沖田さんの後姿を見送りながら、私は再認識させられた。
あの人には敵わない。
あの人を拒めない。
意地悪で、すぐ悪態をついて、それでも無邪気に笑うあの人を
私は―――
あなたが好いというならそれでかまわない。
「ふぅ」と溜め息を吐いたものの、しまりなく顔がにやけてしまうのは沖田さんのせい。