薄桜鬼|short
□覆水盆に返らず
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廊下を歩いていると、近藤さんの部屋の前に臥せっている総司以外の幹部連中が山のように折り重なって、障子の隙間から中を覗く姿が嫌でも目に留まった。
こういう場に斎藤までいるのは珍しいが、みっともないこいつらの姿に自然と眉間に皺が寄る。
「お前ら何してんだ」
まったく俺の気配に気づかなかったのか、みんながみんな俺の顔を見るなり驚き、体勢を崩して近藤さんの部屋になだれ込んだ。
馬鹿か、こいつら。
そう呆れたのも一瞬。
近藤さんと向かい合っていたのは総司の姉、郁だった。
かつての俺の恋人。
「おぉ、気になれば覗いてなんか居ないでみんな入ってくればいいだろう。郁さんと会うのも久しぶりだろうし」
何故か俺まで一緒に覗いていたかのように言われているが、俺はさっき通りかかっただけでまったく無関係だ。
それに郁が来るなんてことは一切聞かされていない。
「みんなお元気そうで何より」
柔らかく笑みを浮かべた郁の顔を見た途端それまで平静だった俺の心がざわめき立った。
「あぁ…」
素っ気ない返事を一つ返しただけで俺は早々にその場を去った。
「おいトシ、久しぶりに郁さんが来てくれたっていうのに、何だその態度はっ!!」
近藤さんの大声が聞こえるが、そんなこと耳に入らないくらい俺は動揺していた。