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□ファインダー越しの瞬き
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ファインダーを覗く私の前に現れた邪魔者。

「はぁ…邪魔」
カメラを避けて、その男に視線を移すと、男も不満げな顔をしていた。

「ねぇどうして僕は撮ってくれないの?」

「どうしてって、動かないから面白くないって言ってるじゃない」

「僕ほど被写体に向いてる人物はないと思うけど」

「ハイハイ、分ったから、そこ退けて」

一応これでもカメラマンなんだから、一際抜きんでてとびきり輝いた被写体を撮りたい。
いろんなフットボーラーの写真撮ってきたけど、今年はETUの椿くんが気になる。
もちろんフットボーラーとして、被写体として。

プレーに落差があって、いまいち安定はしないけど、エンジンがかかると彼は一際光る。
フリーライターの藤澤さんとも話したけど、彼はやっぱり興味をそそられる対象だ。

それに引き換え、私の邪魔をする彼にはほとほと呆れたもので…

練習であれ、試合であれ、彼は本当に守備をしない、自分のプレースタイルを頑なに貫くタイプ。
さっきから見ていれば、味方に指示ばかりで、走っていない。
一人だけ涼しい顔しているし。
そんな男の何を撮れというのか。ルイジ吉田よ。

まぁ、別の媒体でなら十分魅力を発揮できるのだろうけど、同じカメラマンでも生憎と私のジャンルは違う。

椿くんを追いながら何度もシャッターを切る。
スピードもスタミナもある彼の輝く瞬間を狙う。

「アキヲ」

ほら、また邪魔にしに来た。
自分がゲームに出ないからって。
紅白戦に出てる椿くんの姿が見えない。

「もー、椿くんが見えない」

「僕はうつらないの?」

「写らない」

「アキヲの瞳に僕は映らない?」

シャッターを押す指が止まった。

「なんでそんなこと言うの?」

「だって、僕にはアキヲしか見えないからね」

思わずジーノに視線を向ける。

「本当にそうならフットボールなんてできないじゃない」
「そうだね…。明日はちゃんと僕を写しておくんだよ」
そう耳元で囁く。

この気障ったらしい台詞に、余裕に満ちた笑みが嫌。
無性に感じる苛立ち。







視界も悪くなるほどの豪雨の中。
腹立たしいくらいに美しくゴールネットを揺らした。
いとも容易くFKを華麗に決めて見せたその左足、濡れる背番号10。

シャッターを切ってしまったのは私のカメラマンとしての性なのか。

それとも…




「雨の日はやる気半減なんだけどね、今日はアキヲがいたから特別だよ」

試合後。
ずぶ濡れの私にタオルを差し出し、王子様は気障な台詞を告げる。

「ディナーでもどうだい?」
「こんな格好で?」
「ドレスアップさせてあげるよ」


他とは明らかに違う興味の対象。
上手く表せない。
裏を返せば、素直になるのが怖いだけだった。



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