GK|short

□迷い猫
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見放された、

寂しい、

心細い、

移籍話を持ちかけられた時は複雑な気持ちだった。

もうETUにはいらない存在と、お払い箱と宣言されたようで。
俺にとっては戦力外通告に似ていたかもしれない。
何せ、ETUに現役を捧げるつもりでいたのだから。

そして俺は今、ETUとは遠く離れた地で現役を続けている。

せっかくのオフだと言うのに、生憎の雨。
コンビニに出かけた帰り、通った橋の下で歌声が聞こえた。

耳にしたことのある曲。
確か讃美歌か何かだったと思う。

雨音の中で響く女性の歌声は高く伸びやかで、自然と足がそちらへ向かった。

俺の踏む砂利の雑音に気づいた女性が歌を止め、俺に視線を向けた。

女性と言うよりは女の子だった。
きっと俺と一回り近く、歳が離れているであろう彼女の一言。


「にゃぁー」


俺を目に留めると一言、というよりかはそう一鳴きした。

「猫?」
俺の問いかけにニヤリと彼女が笑う。
誰かに似ていると思った。

「雨宿り?傘がないのか?」
俺の問いかけに彼女は首を横に振る。
「家がない」
度肝を抜くような返答だった。

つまりはホームレスということか?
いや、身なりはよくいる若い女の子と変わらない。
では家出?
何か事件に巻き込まれているとか?
関わって危ない人間が出てくるとかないのか?
とにかく危険要素が多い。

「飼って」

とんでもない頼み事だ。
本物の犬猫ならまだしも、人間でしかも若い女の子がこんなことを言うなんて、俺の常識を逸している。


「名前は?」
「アキヲ」

なぜだか俺はその猫に手を差しのばしてしまった。

一人が寂しかったのだろうか。
いい歳して情けない。

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