GK|short

□ガリバー
1ページ/1ページ


やっぱスギ君は大きい。
キッチンの吊り戸棚に手が届かないで困っていると、さりげなくスギ君が助けてくれた。
「これ?」
「違う」
「これ?」
「違う」
「じゃぁこれ?」
「ううんそれじゃない」
調理器具がいろいろ置いてあるから、今私が何を欲しているのかスギ君になかなか伝わらない。
「ほら、自分で取って」
「ひゃっ」
私の両脇を抱えて、軽々と持ち上げられた。
「早く」
驚くのは私ばかりで、スギ君はまったく気にしていない。
「これが欲しかったの…ていうか、何か私子供扱いされてる?」
「そんなことないよ」

にっこり笑ったスギ君。
トン、と私の足が床に着く。

何だろう、やっぱり私って背が低いから子供っぽく見られるのかな…。


一緒に夕ご飯を食べた後は、一緒にテレビを見る。
コーヒーを淹れたマグを二つ持ってリビングに行くと、いつの間にかそこは私の指定席になっていた。

「テーブルに置いとくね」
「ありがと」

スギ君の両脚の間に座って、背もたれにしてるわけじゃないけど、スギ君にもたれかかる。
でもスギ君も嫌がらないで、ぎゅっと私を抱きしめてくれる。
私の肩に顔を近づけて、鼻を鳴らせて犬みたいな仕草するのくすぐったいけど好き。
いい歳してこんなに甘い関係だなんて我ながら驚く。
でもこれが不思議と心地よかったりするからちょっと困りもの。

「ねぇスギ君…」
「何?」
見上げるとスギ君と視線が合う。

「私、もう少し身長あればなぁって思うの」
「どうして?」
「小柄だからって、皆にからかわれるし」
「誰がからかうの?」
「誰って皆、ベテランから若手まで。小学生だ、子供だ、子犬だ、とか」

唇を尖らせて不満を漏らす私にスギ君は「ぷっ」と吹き出したように笑う。
スギ君の方へ向き直り、私は反論した。

「えー何で笑うのー?180越えのスギ君には私の気持ちなんてわからないでしょうけど」
「皆、アキヲが可愛いからそう言うんだよ」
「キモっ」
「可愛いって思ってもらえてるのにキモイって辛辣だね」
「29歳で皆から可愛いって思われるってどう?」
「いいんじゃないの、オバサン扱いされるより」
「だからって、丹波くんは頭ポンポンとか、石神くんは"お嬢ちゃんお菓子やろうか"とか…赤崎なんて"小さすぎて視界に入らなかった"なんて言うのっ」
「あー赤崎のはちょっと酷いかなぁ」
さすがにスギ君もこれには苦笑い。

「持ってた資料で叩いてやったけど」
「ちゃんと仕返ししてるじゃん…」
「まぁね」
ほんとの所、誰にどう思われてもいいんだけど、スギ君はどうなんだろう。

「俺は気にしてないよ。アキヲはアキヲだし」
ぎゅっと抱きしめられて、私の身体はスギ君に包み込まれる。
「私が気にしてるの…」
「可愛いけど、ぜんぜん子供っぽくなんてないよ」
「えっ」
「だって…」
スギ君の手が私のシャツの中へ忍びこむ。

冷たい指の感触に、触れられたわき腹が熱を持つ。
「やぁっ…」
「ほら、俺を誘って色気のある顔する」
「もぉー」
「ねっ」
スギ君からのキス。
軽く触れ合うだけのキスを何度か交わした後に、スギ君の下唇を舐めてみる。
わき腹に置かれた手が一瞬驚いたように震えた。

「んっ…」
歯列を割って遠慮なく侵入してきた舌。
舌を絡ませて、吸われて、角度を変えては深くもつれあうキスを繰り返す。
唇を離して、額を合わせて二人とも赤い顔で息を上がらせて見つめ合う。
「アキヲ…」
「スギくん…」
熱い眼差しを絡ませて名前を呼び合って、私はスギ君の熱に乱される。


(おやゆび姫の小さな悩み)



アキヲは小柄な事を随分気にしているみたいだけど、俺はその小柄なところも含めて好きだからいいんだけど。

「アキヲ、好きだよ」
「ん、あたしもっ」
額にかかる髪を掻き分けキスを一つ。

確かに子犬みたいに愛くるしいけど、やっぱりこうやって俺に抱かれている時は大人の女の表情と仕草を見せてくれる。
そのギャップがたまらなく俺のツボを突くし、クラブの他の誰もがアキヲのこんな顔知らないと思うと優越感に浸れる。

甘い声で俺の名前を呼び、啼き、求めるアキヲの姿に酔いながら、今夜も深く交り合い、気持ちを確かめ合った。




「スギ、お前は体力あるからいいだろうけど、ほどほどにしといてやれよ」
欠伸を連発するアキヲを見つけたドリさんから鋭い指摘を受けた。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ