GK|short

□とられてたまるか
1ページ/1ページ



「あ、お疲れ様」
「おぅ」
川崎との試合後、ロッカールームから出てくると、アキヲぶつかりそうになった。
今日はかしこまった雰囲気のスーツ姿だった。
「疲れてんのか?」
「そんなことないよ。私より笠野さんや後藤さんの方が…」
どうやら今日の試合はETUスポンサーの大江戸通運の副社長が視察に来ていたようだった。
「そっちも大変だな」
「あ、でも、良則はそんなこと気にせず、思い切りプレーしてね」
「何、気ぃ遣ってんだ」
アキヲの頭をクシャクシャとしてやると、アキヲはえへへと締まりのない笑顔を見せた。

試合後のスタジアム。
関係者しか行き来しない場所。
出くわす可能性は無きにしも非ず。

「あ、」
声を上げたのはアキヲ。
視線の向こうには川崎の星野。
向こうもこっちに気づいたような顔をした。

「星野さんだ…」
そう言えば、いつだったか代表戦を見て「星野かっこいい」とか言ってたな。
案の定、自分の立場を忘れて瞳を輝かせている。

「お疲れさんです。今日はどうも…」
「はっ、よく言うぜ」
俺とアキヲの前で律義に挨拶する星野。
俺の隣でずっと星野を見つめるアキヲ。
そして苛々する俺。

「もしかして彼女さんですか?可愛いですね」
「そりゃどうも」
明らかに俺の隣のアキヲを見ての言葉。
アキヲの表情が一層煌びやかに輝く。

「堺さんが羨ましいです」
「よく言うぜ。そっちだっているんだろ」
「寂しいフリーですよ。堺さんの彼女さんみたいに可愛い人どこかにいませんかね」
「知るか」
憧れのサッカー選手を前に呆けた顔を晒すアキヲにも大概苛々するが、星野のこの態度も気にくわねぇ。

「次は負けませんから…じゃぁ」
去り際の星野のアキヲを見る目が余計にムカツク。

「ったく、何だよ。アイツ」

「可愛いって言われちゃった」
何とも嬉しそうに言うアキヲ。
「浮かれてんじゃねーよ」
思わず舌打ちしてしまう。

「そんなに怒らないでよ」
「怒ってねぇよ」
子供みたいな反論にアキヲは苦笑した。

「あたし、ちゃーんと見てたよ。上からだけど」
「あ、何が」
「良則の活躍」
「ゴール決めてねぇよ」
「アシスト、カッコよかった。あのままシュートしてたら止められてたでしょ」
「んだよ。評論家か」
「違うよー。私は堺良則の一番のサポーター」

そんな台詞を満面の笑みで言われれば、俺の疲れも苛立ちも一気に吹き飛ぶ。

「今夜、用事あるのか?」
「クラブハウス戻ってちょっと雑用残ってるくらい」
「じゃぁ、それ終わったらメシ行くか?」
「おごりねー」
「わーったよ」

選手としてストイックになりすぎて、アキヲを放っておくこともある。
アキヲは何も言わないが、本音はどうだろうか。
俺より側にいてくれる男を選ぶかもしれない。

「アキヲ」
「何?」
向こうに行こうとしたアキヲを呼びとめた。
周囲には俺たちしかいない。

アキヲを抱きしめて、戸惑うアキヲにキスをする。
「良則の焼きもちやきー」
目を伏せて頬を真っ赤にして、アキヲは俺の胸に顔を埋めた。

この可愛い恋人を誰かに取られてたまるか。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ