萌えサンド

□ダテサナサンド
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薄雲流れる青い空、木漏れ日煌めく深緑、麗らかな陽気を謳歌する小鳥の囀り。
戦国乱世の世に訪れた穏やかな上田でのひと時。

一息つこうと縁側で茶を啜ってのんびりしていた。


「さすが俺が見込んだだけのことはあるな。真田幸村」

「政宗殿がなんと申されても譲れぬ!!」

「Ha!それは俺だって同じだ。力づくでも奪ってやる」

「そのようなこと、某が許し申さんっ!!!!!」


今日も私の目の前で繰り広げられる無益な争い。
互いに好敵手と認めあう仲だと聞いてはいるが、男の見解は女の私には理解の範疇を超える。

湯呑に口をつけて、一息。
視界に広がるのは紅蓮の炎と蒼い雷(いかずち)の激突。

「白黒ハッキリつけようじゃねぇかっ!!」
「望むところぉっ!!!!」

飛び散る火花をのんびり見ながら、よくあれで命を落とさないものだと呑気にまた茶を啜る。


生死を分けて斬りあっているというのに生き生きとして二人。

「おかしな二人…」
何故だかじゃれあう子犬と子猫のように思えてつい笑ってしまった。


「郁を政宗殿に渡すわけにはいかぬっ!!」

「男と女の関係にかけちゃ、俺のが一枚も二枚も上手だ。俺が郁を落とす!!」


んっ!??

対峙し肩で息をする二人の会話に、啜っていた茶を吹き出してしまった。

「郁はこの先も某がお守り申すっ」
「いや、郁は今すぐ俺の物にして奥州に連れ帰る。なんなら身から先に絆してやってもいいんだぜ」
「そそそそそそ、そのように破廉恥な行為、この真田幸村が許さぬっ」
「Ha!破廉恥だと?好いた女なら心も身体も欲しいと思うのが世の常ってもんだろ。真田幸村」
「うぅ…しかし政宗殿!物事には順序と言うものがござろうっ」
「そんな悠長なこと言ってられねぇくらい郁に惚れてんだ」
「そ、それはっ!!某とて同じことっ!!!!」

あの、何と?
今なんと申されましたか?
お二方…

『郁っ!!!!』

「某は郁を心底慕い申し上げておるっ」
熱意を纏った熱く焦がされてしまうような双眸。

「郁、俺はアンタに惚れてる。何としても奥州に連れて帰るぜ」
色気を放ち青々と燃え盛る炎を宿した左眼。

同時に二人の視線が私に向けられる。
一体私にどうしろと…

「あ、あのー私、そろそろ夕餉の支度を…してまいります!!」
脱兎の如く走り去る私。
そんなの私はまったく知らない。突然そんなことを言われても困る。

『郁っーーーーーー!!!!』

女中頭にはしたないと叱られるだろうが、二人から逃げるため音を立てて廊下を走りぬける私。


日中は何とかお二方をまいて逃げ切ったはいいけど…
奥州からの来客は上田で一晩泊られるということで、なぜか私が寝所の支度をすることになってしまった。

「郁、一緒に寝ねぇか?」
「あははは…」
空笑いで遣り過ごすも、長い前髪から覗く龍の左目は恐ろしいくらいに私を見つめる。

「今夜ここで郁を抱いて名実共に俺の女にして奥州に連れ帰るぜ」

腕を掴まれ、敷いたばかりの褥の上に組み敷かれしまい、もう乾いた笑いすら出ないこの状況。

「郁!!」
凄まじい足音と共に開け放たれた障子。
そこに現れたのは紛れもない、私がお仕えする主の幸村様。

怒り心頭に発するとは、まさしく現状の幸村様のことだろう。
私と政宗様のこの状態を目の当たりにして、幸村様の表情が見る見るうちに変貌していく。

「ままままっ、政宗殿!!!!!!!!!!」
「見ての通り、取り込み中だ、you see?」
「ゆっ、幸村様!これはっ!!」

「抜け駆けなど武士にあるまじき行いでござるぞ!政宗殿!!」
「だから、違いますっ、幸村様っ!!」
「郁、破廉恥とは重々承知の上、この真田幸村、腹をくくりましたぞ!!!」

「えっ?」

「では某もっ!!」
こちらに詰め寄る幸村様。
その瞳はぼうぼうと燃え盛る炎の様で、これでは何を言っても右から左。

「Ha!COOLじゃねぇな、けどおもしれぇ。乗ったぞ真田幸村っ」
「いざ勝負!!」

刻一刻と迫る私の身の危機。

「どっちが悦かったか、郁に決めてもらうぜ」
「はぁ!?」
「お、俺は、政宗殿よりも経験不足かもしれぬが、必ずや郁を善がらせる所存!!」
二人だけ妙なところで意気投合して燃え上られてもこちらが困る。

「ちょっ、やっ、待って、お二方とも冷静にっ…」
私を組み敷き見下ろす二人の男。
影を落とし顔を近付けて、私の意思など皆無で迫ってくる。

「待てぬ」
「待てねぇな」



「ぎゃーーーーーーーー!!」

帯を解かれ、乱れる私の着物。
悲鳴というよりも喚き声が城のどこかしこに響き渡ったことは言うまでもない。







「政宗様っ!」
「旦那ー!」

ほどなくして寝所に現れたお二方のお目付け役。
私にはそれが救いの手に見えた。

みっちり灸を据えられる幸村様と政宗様。



それにしても私は本当に幸村様か政宗様どちらかを選ばなければならないのだろうか。

きっとこれは世の女子にとっては願ったり叶ったりで、正直私とて嫌ではない。
ただ身分違い甚だしいことこの上なく、あまりにも恐れ多くて、私には到底できない究極の選択だった。




後に分ったことだけど、猿飛様も片倉様もとうの昔にお気づきだったとか。
知らぬは私ばかりとは。

「はぁ…」

奇妙な関係と、何も知らずにのうのうとしていた自分に溜め息が出た。



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