萌えサンド

□タツジノサンド
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シーズン中断期間。
そして明日からは後半戦に向けて夏のキャンプが始まるETU。

そういうわけで郁は準備に追われていた。

「何に使うか知りませんけど、水着と浮輪、かき氷機用意しましたよー」
「おーサンキュー」
達海に呑気に礼を言われたところで余計に腹が立つ郁は膨れっ面を見せた。

「何怒ってんのー?」
「明日早いから今日は早く帰ろうと思ったのに…」

郁の腕時計は22時を指している。

「んじゃ、ここ泊ってけば?」
「はぁ!?」

言いだした達海はどういうつもりなのだろうか。
男と女が二人きりで、一晩夜を明かすことに郁は激しく抵抗を感じた。


「じゃぁボクが送って行くよ」

颯爽と二人の前に現れたのは、こんな時間にここに居るはずのないジーノだった。


「なんで、ここに居るの?」
「なんでって、忘れ物思い出したからね」
そう言ってジーノは郁の肩を抱く。

そうやらジーノの意味する"忘れ物"とは郁のよう。

「何度携帯鳴らしても出ないから、わざわざ戻って来たんだよ」
世の女性なら誰でも転んでしまうような王子の光り輝く笑顔。
しかし郁は例外で、それを華麗にスルーしてしまう。

「え、あ、ごめんね。ほんと気付かなかった」
郁はジーンズの後ろポケットから携帯を取り出して、数時間ぶりに着信を確認した。
ジーノの言う通り、着信履歴がびっしりと"ルイジ吉田"で埋め尽くされている。

「なにー、ジーノ。これじゃーストーカーみたいじゃーん」
二人のやり取りをおもしろくなさそうに眺めていた達海が、郁の携帯を覗きこんで笑う。

「いくらタッツミーでもそれは聞き捨てならないね」
「だいたい郁は仕事してたんだから携帯なんて出れるわけねーじゃん」

珍しくムッとした表情を見せるジーノ。
負けじと達海も不機嫌そうな表情を浮かべる。

「私これで帰りますね。お疲れさ…」

「じゃぁボクが送って行くよ。ついでにどこかでディナーでもしようか」
「えっ?」

「郁は明日早いからここに泊るってさ」
「はっ?」

郁の言葉を遮る様に二人がここぞとばかりに勝手な事を言い出す。

「あの…電車には十分間に合うので自分で帰ります。明日からキャンプなんで後半に向けて頑張りましょうねっ!!」
二人に一礼して踵を返し、郁は去って行った。


「あーあ、フラれてやんの。王子様」
「こんなのフラれた内に入らないよ。郁は恥ずかしがり屋だからね」

「どっから湧いてくんだよ、その自信」
「ハハ、タッツミーこそ、目が真剣だけど」

「そりゃー真剣にもなるって、何せ本気だかんなー」
「へー、タッツミーが本気だなんて、ボクもうかうかしてられないねー」

顔には余裕の笑顔を浮かべながら、内なる火花を散らす二人。


翌日からのキャンプ。
郁がETUのスカウトのその人の前で、にこにこと笑顔を見せているのを目撃した二人。

これは予想外の展開。
驚きの余り声も出ない。

シーズンは後半戦に向けて熾烈を極めるさなか、郁を取り囲む関係は混迷を深めていた。





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