戦国BSR|short

□ヒツジもオオカミも結局は同じなんです
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ひとたび戦場へ出ると、幸村は別人のように凛々しく勇猛果敢な若武者に変貌すると佐助から聞いたことがある。


武田の娘である私は戦を知らない。だからそんな幸村は皆目見当がつかない。

私の知ってる幸村は大の甘党で、女にはまったく免疫のない、純な青年。
ただそれだけ。

いつものように私は自分の居室に幸村を招き入れている。

「幸村の髪って猫の毛みたいに細くて柔らかいのね」

首元で結われた幸村の髪を一束つかみ、自分の指に絡ませて遊んでいた。

「お止め下され。郁殿」
「だって楽しんだもの。そうだ、私が結い直してあげる」

髪を触るのが楽しんじゃなくて困る幸村を見るのが楽しい。


「某がお館さまの姫様には抵抗できぬと思うて、殿はいつも某で遊んでおられる」
「なーんだ、気づいてたの?」
「某はそれほど馬鹿ではござらん」
幸村の後頭部しか見えないけど、脹れっ面をしているのはなんとなく分かった。

「はい、出来上がり」

幸村の肩をポンと叩いて、鏡の方へ向かせる。
「なっ!なんということをっ!!郁殿!!!」

顔を真っ赤にして怒る幸村も面白くて楽しくて思わず笑っちゃう。

「元に戻して下され!」
いつもは一つに束ねている髪を三つ編みにしてみたんだけど、気に入らなかったみたいで、びっくりするくらい怒られちゃった。

「えぇー気に入らないのー。可愛いと思ったのに」

もちろん怒るの分ってやってるんだけどね。


「男子に向かって可愛いとは到底褒め言葉とは受け取れませぬぞ」
「ごめーん」

謝罪の気持ちなんてこれっぽちも籠ってないけど、幸村は冗談をちゃんと分ってくれてると思ってた。


元結を解く手を背を向けたままの幸村に掴まれて一瞬驚いた。

「俺を舐めておられるのか?」

振り返り、両手首を掴まれ、私の身体は即座に硬直した。心臓が飛び出そうなくらいびっくりしてる。だって、幸村の顔が怖いんだもの。それに自分のこと俺って…。


「えっ、あっ…」

なんて言えば良いのか分らない。こんな幸村見たことない。

そうやって戸惑ってる間に私の身体は幸村に押し倒されてしまった。

「郁殿は俺が男だということをお忘れか?」
「うぅん。そんなことない。ちゃんと分ってるよ」

焦る。幸村の眼が真剣すぎて、掴まれた両手首が痛くて。

「否、分っておられぬ」
そう言った幸村の顔が次第に近づいてきて、私に覆いかぶさる影が濃くなって…


口付けされた。


「んっ…!!」
抵抗しようとしても男の幸村には到底敵わない。

強引に歯列を割って舌が割り込んできた。あまりに唐突でどうすればいいか分からない。絡められた舌は私の口内を蹂躙する。


私は無意味にもがくだけ。


「ふっ…ぅん…」
ようやく離された唇の間には銀糸が引いていて、淫靡な雰囲気がする。

必死で呼吸しながら起き上ろうとしたら、矢継ぎ早に幸村は私の首筋に舌を這わせた。

「ひゃっ…!ちょっと、幸村!!」
「如何され申した?、じゃないわよ。何やってるのよ!!」


「何と申されますと、俺が男だということを郁殿に身をもって分って頂こうと思うておりますが」
「阿呆!馬鹿!破廉恥!」

恐怖から眼尻に涙を溜めがら、ありったけの罵声を浴びせてみたけど効果はなかった。

「失礼ではありますが阿呆で馬鹿で破廉恥なのは郁殿の方かと…男を自分の閨に招き入れるとは無防備でござりまするぞ」

これではぐうの音もでない。確かに幸村の言う通り私が馬鹿だった。

幸村の視線が熱い。瞳の奥で炎がゆらめいているような、熱くて、燃えていて、それに艶めいていて…

そんな瞳で私を見ないでよ。鎮まれ私の鼓動。何か変よ、私。


さっきまでは怖いとさえ思えた幸村を今は受け入れようとしていた。

心が躍り歌っていることを確信する。私の中で幸村に特別な感情が芽生えていることを。きっと前からこうなることを望んでいた。

「幸村…」

その名を呼び、私は幸村の首に手を回すとそれが合図となる。

再び浴びせられるのは口付けの応酬。角度を変え、幾度も幾度も熱く激しく口内を侵食する。

「…んっ…」

時折零れるのは慣れない私の吐息。そして感じる。幸村の身体が熱を帯びていくことを。


「ホントはね、何もしてくれないのかと思ってたの…」

女の言う言葉じゃないのは分ってるけど、頬を染めてそう告げる私を幸村は口元を歪めて笑った。

「郁殿は破廉恥でござる」

幸村は私の打掛を脱がせ、その長い指で帯を解くと中から表れるのは未だ男を知らない白い肌。

眩しそうに目を細めて私を見る幸村。その熱い眼差しに身も心も焼き尽くされそう。


人畜無害な面の下に隠れている素顔の幸村を暴きたい。

「もう理性がもたぬ…」

濡れた唇から紡がれる言葉、妖しく艶めいた瞳は私の心を捉えて離さない。

そして私は幸村が男であることをこの身をもって思い知らされる。熱く滾った熱を一身に受けて。


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