戦国BSR|short

□予約済み
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午後7時。

とにかく私は急いで弟の待つ保育園へ向かう。


「ごめん!遅くなって!」

肩で息をしながら保育園に着いたとき、部屋にはたった一人残された弟の幸村が担任の猿飛先生と遊んでいた。

「あっ、お姉ちゃん来てくれたよ」

猿飛先生の言葉に、気づいた幸村は私を見つけると満面の笑みで駆け寄ってきた。

「ごめんね。幸村、さびしかったでしょ」

「それがし、そのようななんじゃくなおとこではごじゃらん!!」

また変な口調で生意気なこと言うけど、その小さな体を抱き上げると幸村は私にぎゅっとしがみついた。


「すみません、先生。明日はもっと早く迎えに来ますので…」

幸村を抱っこしたまま頭を下げると猿飛先生は「いいですよ」と笑顔を見せてくれた。

先生の笑顔はなんだか安心する。


「さようなら」

私はぺこりとお辞儀をして幸村を抱えて保育園を去ろうとした。

「あっ、ちょっと待って。俺ももう終わりだし、よかったら一緒に帰らない?夜道危ないしさ送って行くよ」

「へっ?」

聞き返す間もなく、猿飛先生はエプロンを外して帰る支度を始めた。


「あのー先生。どこにお住まいか知りませんけど、家まで送ってもらうなんて…他の保護者に何か言われたりしますよ?」

帰り道、猿飛先生は自転車を押しながら、幸村を抱っこする私に歩調を合わせてくれる。


「見つからなきゃいいんじゃない。それに女の子と幼児がこんな夜に歩いてちゃ危ないよ」

「まぁ、そうですけど…やっぱり…」

胸元で聞こえる幸村の寝息。

口元の涎を拭いてあげようと、鞄からハンカチを出そうとする私を見て、猿飛先生は幸村をおぶってくれた。


さりげなく差しのべられた手がすごく逞しく感じる。


幸村は猿飛先生の背中に寄りかかってすやすや寝息をたてていた。


たまに口をもごもご動かせ楽しそうな顔をするのを見ると、お団子を食べている夢でもみてるんじゃないかな…。


優しい人。

この人が弟の先生なんかじゃなくて、恋人ならよかったのになぁ。

猿飛先生の代わりに自転車を押しながら不毛な妄想を巡らせてみた。


きっと彼女いるよ。こんな素敵な人には。


「ねぇ郁ちゃん」

初めて名前で呼ばれ、正直驚いた。

真田幸村の姉ではなく、私を個人として見てくれている気がした。

こっちを見た猿飛先生は先生じゃなくて、猿飛佐助という男の顔をしている。


高鳴る胸の鼓動。

まるで走り出したよう。


「一応ケジメはつけようと思うから、卒園まであと2年は待っててね」

これって、もしかして…

そして私が尋ねるよりも先に、彼の唇が重なる。

「で、これは予約済みって証明」

瞬きばかりを繰り返して肝心の言葉が出ない。

「俺様じゃダメ?」
ちょっと遠回しな告白をされて、唐突にキスされて、挙句このセリフ。

寧ろその逆ですよ。先生。

「私なんかでいいんですか?」


すると彼はにっこり笑って一度キスをした。


「郁ちゃんじゃないと意味がないんだ」

その言葉、とっても嬉しいですけど、キスってケジメつけられてませんよ。


明日からどんな顔して会えばいいんだか…

この人はそんなこと気にしてなさそうだけど…


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