Free!

□トップスピードで走り出した灼けつく夏
1ページ/1ページ


女子大生のひとり寂しい夏休み。
一人暮らしの弟、遙のこともあり、とりあえず実家に帰ってきたものの、何もない。
遙と言えば泳いでばっかでろくに家にもいないし、結局私は実家でひとりぼっち。

「あっつー」

扇風機の風を前面に浴びつつ、右手は団扇を忙しなく左右に振りながら、左手はこともあろうか丈の長いスカートをめくり上げてパタパタ。
誰もいないしいいかー。大の字になって寝転ぶ。

縁側でこれでもかというほどにだらしなさを披露していた。

「…さん?」

暑いとか文句言いながらもうたた寝していたようで、誰かの声がして目を覚ますと、そこには上背のある男が一人立っていた。
唖然とした顔で。

「あ、えっ、うわっ」
慌てて起き上がり、脚を閉じて、スカートを伸ばして、背筋を伸ばした。
恥ずかしさで汗が吹き出でて止まらない。

「えっと…伊紅、さん?」

その人をよく見れば見覚えのある制服とその顔。

「ま、まこちゃんっ!!」

「帰ってるとは聞いてはいたけど…」
「あははは、恥ずかしいとこ見られちゃったね…」
ほんと、みっともない。

「あ、はるならまだ帰ってないよ」
「うん。今日は伊紅さんに会いに来たんだ」

隣に座った真琴がはい。と優しい笑顔で差し出されたコンビニの袋に入ったアイスクリーム。

「ありがと…」
「好きなの食べてね」

隣に座っているのは弟の幼馴染で、私からすれば弟みたいな存在のはず。
でも何だろう。もう私の知っているまこちゃんとは随分違う。
背も大きくて、体格も男性って感じで、包容力があるような…。

だめ、だめ、いくら彼氏と別れたばかりだからって弟の親友にトキメキと癒しを求めるのはダメ。

ふるふると頭を振って邪念を振り払う。

「どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもない。てか、まこちゃんも一緒に食べようよ」
「じゃぁ伊紅さん先に好きなの選んで」
「じゃぁ私はストロベリーっ!」
迷わずカップのアイスを選んだ。
「それ好きだもんね」
「覚えてたの!?」
「だっていっつもソレだったでしょ」
真琴の気配り上手に本気でときめいてしまいそう。

「じゃぁ俺はこっちね」
残りの二つから真琴はバニラを選んだ。

二人並んで仲良くアイスを食べ始めた。
しばらくして、私がじーっと真琴を見つめているのに気づいた真琴が「食べる?」って聞いてきた。
「いや、まこちゃんのアイスが欲しいんじゃなくって…何か成長したなーって思ってね」
「あー、そういう視線。小学生の時と比べてる?そりゃ俺だって成長もするよ」
「ね、立ってみて」
私も立ち上がり向かい合って背伸びしながら手を伸ばした。
「ほんと、大きいねー。あー昔は私のほうが大きかったのになー」
「はは、いつまでも小さくないよ」
「はるにまで抜かされちゃったしねー」
ぷぅっとほっぺたを膨らませると真琴は少し屈んで私と目線を合わせた。

「俺は伊紅さんくらいの身長がちょうどいいけどね」
「えっ?」
私が理解するまでに真琴の唇は私の唇と重なる。
触れ合った瞬間だけアイスの甘い香り。

「欲しいと思ったから、悩むより先に行動してみた」
にっこり微笑みながらも真琴の大胆な行動と発言に戸惑う。
「えっと、それは…つまり…そういうことだと思っていいの…かな?」

「だって、のんびりしてちゃ伊紅さんどっか行っちゃうでしょ」
「私に彼氏がいたとしても、強引に奪ってやるぜ的な?」

「実ははるから聞いてたんだよね。"フラれた"って泣いてうるさいって」
「あぁ、そう…」
確かに実家に戻るなり、はるに泣きついて嫌がられたのは事実だけど。
真琴の口からそう聞くとけっこう堪える。

「俺がいれば泣かなくて済む?」
キスの次は抱きしめられた。
広くて大きくて温かい真琴の胸。真琴がとても大人に思える。

「伊紅さんがずっと好きだった」
頭上に降りかかる優しい声は真琴の気持ちそのもので、素直に答えていいものか戸惑う。

「私、まこちゃんより三つも年上だよ」
「それで?」
「私、前の彼氏と別れたばっかだよ」
「それで?」
「私、何かいろいろめんどくさいよ」
「それで?」
何も問題ないというように笑顔を浮かべて、なかなか食い下がらない真琴。

「えっと、えっとー、浮気しちゃうかも…?」
「させないよ」

ぐいっと腰を引き寄せられて、抱きしめられた。

年下の高校生とは思えないほど、真琴に男を感じる。
参ったなー。

「浮気なんてできないくらいに俺に溺れさせるから」
紛れもなく男に成長した真琴が私の前にいる。そして私は今そんな彼の腕の中にいる。

「まこちゃん…いいの?私で」
「好きだよ伊紅さん」
にっこり笑った真琴から二度目のキスをもらった。
見た目の割に強引なキスで、歯列を割って入って来た舌に戸惑う。

「んっ!?」
「っ…」

互いに舌を絡め合って、唾液を交じり合わせて、理性が飛んでしまうほど深く激しいキスを交わす。
そんなキスどこで覚えたのよ。
あの真琴からは想像もつかない荒々しいキスに立っていられなくなって私は真琴の背中をキュッと掴んだ。

「照れてるの?可愛い」
真っ赤になって照れる私を見て可愛いだなんて。

「まこちゃん…」
くいくいとネクタイを引っ張ってもう一度キスして欲しいなー、なんて強請ってみたんだけど。
「ごめん、これ以上しちゃうと押し倒して行くとこまでいっちゃいそうだから」
額にキスして「今日はここまでね」と言われてしまった。

「帰るよ」
「はる待たないの?」
「明日学校で会うからいいよ」
「そっか」

「そんな寂しそうな顔しないで」

男らしくなったと思っていたら余裕まで見せてくるから、私はきっと翻弄されるんだろうな。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ