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□災い転じて何とやら
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渚とは家が隣で小さい頃からよく遊んでいた。
小学校、中学校と一緒で、高校は別のところへ進んだ。
厳密に言えば、私が渚から離れた。

私は常に他の女子より抜きん出ていた。
背丈が。
短い髪や短気な性格も手伝ってか男扱いされることもしばしば。
男子と殴りの合いの喧嘩して顔に傷つくったなんてことも…。
そんな私の隣にはいるも渚がいた。
小柄で人懐っこくて、誰からも可愛がられて、渚は私が欲しいもの全てを持っていた。
羨ましかった。

それがコンプレックスで隣にいるのが嫌だった。
だから高校は渚とは別のところを選んだ。
渚とは比べられない、男にも何も言われない女子高を。
右を向いても左を向いても女子ばかりの環境。通学も距離があるから朝も早いし帰りも遅い。これで今までのように渚と関わりを持たないと思った。

ところが、こんな男みたいな私が女子高にいると、女子生徒の"憧れの的"みたいな存在になってしまうのは必然的だった。
本気かどうか分からないけど可愛い女の子から告白されたり。美人の先輩から必要以上にアプローチ受けたり。
それはそれで面倒だった。
けれど渚の隣にならんで「渚くんは可愛いのに隣の子は女の子なのに」なんて言葉を聞くことはなくなった分、気分が楽だった。

「伊紅ちゃん、お帰り〜」
「で、何でいるの?私の部屋に?」
「えへっ、来ちゃった」
ペロリと舌を出して人懐っこい笑顔で帰宅した私を、私の部屋でゲームをしながら迎えたのは渚。
「おばさんがね、部屋に上がって待ってたらいいよ〜って」
「だからって上がる?」

いやいや、何かおかしくない?
娘が留守なのに、訪ねて来た男を娘の部屋で帰り待っとけなんて言う親、間違ってない?
渚の人畜無害そうな外見のせい?
こんなのどう考えたっておかしいでしょ!!!

親だって、渚だって、今まで私がどんな思いでいたかなんて知らないくせに。
けれど、そんなことを声を荒げて言うわけにはいかなくて、ベッドにカバンを叩きつけて苛立つ気持ちを現した。

「どうしたの?伊紅ちゃん」
「どうもしてない」
「久しぶりだね。家隣りなのに学校違うと全然会えないから寂しいや」
「別に私は寂しくなんかない」
私のつっけんどんな物言いにも渚は嫌な顔するどころか、そんなことはお構いなしとでもいうように嬉々とした表情で自分の近況報告を始めた。
「あのね、岩鳶にね、はるちゃんとまこちゃんがいてね、ほんと嬉しくてね、あ、覚えてる?はるちゃんとまこちゃん、小学校の時同じスイミングクラブだった…」
知ってる。
渚の泳ぎいっつも見ていたから知ってる。
その人たちとリレーしてたのも知ってる。
だから何?
私にそんなこと話してどうなるの?
何でそんなに楽しそうに他の人の話して喜んでるの?
「それで…?」
「でね、ウチの学校水泳部ないんだけど、また一緒に泳ぎたいなって思って、水泳部つくろうってことになったんだよ」
「そんなどうでもいいこと言いに来たの?私は渚と一緒にいたくないから別の学校選んだの、渚と比べられるのが嫌だったの、渚が隣にいるとイライラするの、せっかく顔見なくなってせいせいしてたのに来ないでよっ」
我ながらこんな酷い言葉を言えるもんだと感心した。
暗い部屋に一瞬の沈黙。


「そうだね。ごめんね、伊紅ちゃんにはどうでもいいことだよね」
渚はいつものようににっこり笑って私の部屋を出て行った。



それから渚に会うことはなかった。

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