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□伝統の冥土喫茶
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鮫柄学園文化祭―――――

水泳部伝統の執事メイド喫茶。
何が楽しくてこんなメイドのコスプレしなきゃいけねーんだ。

ふざけんなっっっっっっっっ!!!!!!!!


「伊紅…」

絶句。

「……うん、トッテモ、ヨク、ニアッテルヨ、リンチャン……」

適切な表現が思い浮かばず視線が泳ぐ伊紅。

「思ってねぇだろっ、つーか、伊紅だけには見られたくなかったーーーーー!!!!!」

「あれ、もしかして松岡の…」

「そーっス、俺の彼女っスよ。伊紅、この人ウチの水泳部の部長の…」
「はじめまして!!!!部長の御子柴ですっ!!!」
「は、じ、めまして」

伊紅の両手を握ってブンブン上下に振る部長。
あー、何だ、これ。この気持ち、何て言うんだけ、あー、あれだ、あれ、殺意って言うんだ。
殺意以外のなにものでもない感情が沸々と湧き上がる。

「あ、伊紅さん、松岡まだコレだから、よかったら部長の俺が案内しますよっ」

コレって何だよ。何だよこの悪しき風習。自分は執事の格好してるからいいだろうけどよっ。

「は、はぁ…」

はぁ。じゃねーよ、そこはきっぱりと断れよっ。流されてんじゃねーよ。

「部長何言ってんスか?俺の彼女に気安く話しかけないでください。名前呼ぶのも触るのも禁止スからっ」

あーもーこれ以上イライラさせんなよ。

「もうすぐ終わりだからちょっと待っとけ。ウロウロすんなよ」

「うん」

ちくしょー、なんて可愛い顔して「うん(ハート)」なんて言うんだよっ。顔がニヤけるだろ。


恥かきまくりの無理やり着させられたメイド服を、文字通り投げ捨てて、急いで制服に着替えて、待たせている伊紅のとこに向かった。

執事・メイド喫茶の近くにいるはずだ…が、妙な人だかりができている。

"誰かと一緒ですか?"
"誰かのお姉さんですか?"
"いくつですか?"
"彼氏いるんですか?"

そうだここは全寮制男子校だ。女に縁のない飢えたハイエナどもが伊紅目当てに群がってギラギラしてやがる。
どこのどいつか知らねぇけど、他人の彼女に気安く声かけんじゃねーよ。

「伊紅、行くぞっ」
強引に伊紅の手を引いてむさ苦しい群れの中から連れ出した。

「ありがと」
「ったく断れよ、俺がいるって言えよ」
「へへへ、そうだね」
頼りない年上の恋人の手を引いてひとまず屋上へ上がった。

「何うれしそうな顔してんだよ」
日陰に座って一息つくと、隣の伊紅はにやにやと嬉しそうに笑っている。いろいろ心配するこっちの身にもなれ。

「だってね、凛と手繋いで歩いたの久しぶりだから嬉しいの」
そう言って伊紅は俺の手をそっと触れてくる。満面の笑みを見せて。

俺の理性を試してるのか?何の試練だ?こんなの耐えられるわけねーだろ。

チュ、

ムカついたからキスしてやった。

「スキだよ凛」

にこにこと笑いながら伊紅は俺を手のひらで転がして遊んでいるのか?

「あー、伊紅が悪いっ!!!」

ムカついたからもうっかいキスしてやった。

伊紅が蕩けそうなくらいエロいやつを。

しばらく会えなかった分を埋め合わせるくらいのつもりでキスを繰り返した。
けっきょくどんだけやっても足りねぇんだけど。

「凛、ここ学校だよ」

「分かってる。お前が悪い。」



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