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□一歩進んだのは、きっと、あい
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私がどうこう言える立場ではないし、特に何か言うつもりもないけど、さすがに驚いた。
開いた口が塞がらないとはこういうことだと実感した。
県大会のメドレーリレーで岩鳶高校水泳部は怜くんではなく鮫柄学園、つまり他校の凛ちゃんが出場したという前代未聞の珍事態。
私には到底理解できない紆余曲折を経て、そういう結論にたどり着いたのだろうけど、部外者の私にも腑に落ちない点はさすがにある。
「怜くんはよかったの?」
県大会後、まだ暑い盛りの二校の合同練習を見学に来た、暇を持て余す私は冷くんに声をかけた。
「今回だけは」
対面のプールサイドで岩鳶高校水泳部の彼らと合同練習相手の鮫柄学園の凛が楽しげに会話する姿がある。
長く続く友情を眩しそうに見つめる怜くんの背中に触れた。
「……彼らは美しい」
「うん、そうだね。でも怜くんだってあの中の一員だよ」
怜くんだって彼らと同じ強い絆がある。仲間だからここまでやってこれたのに遠慮なんてする必要ないのに。
「次は僕が凛さんより美しいバッタを披露する番ですから、伊紅さん応援来てくださいっ」
「じゃぁ来年は私も県大会応援行こうかな」
「期待していてください」
「うん、怜くんの綺麗な泳ぎと、岩鳶のチームワークで優勝するの期待してるから」
「はいっ」
フレームの奥で輝く瞳は純粋且つ逞しくも思え、不覚にも心がときめいた。
「ね、怜くん」
「な…何ですか?」
顔を覗き込み、近づけると戸惑うところは年相応の可愛らしさも持ち合わせているのだろう。
「怜くんと私は…美しい関係になれないのかな?」
「え、あ、…伊紅さんっ…それはっ…」
みるみる真っ赤に染まる顔。
「同じ情でも友情じゃなくて、愛の方ね」
誰にも気づかれないように手を伸ばして、そっと怜くんの手に触れた。
「な、なれますっ!」
真っ赤な顔で慌てふためく彼はとても純粋で、でも私の手を握り返した彼はとても男らしくて、私は彼への感情を実感した。
背伸びして、誰にも聞かれないように彼の耳元で呟く。
「好きだよ、怜くん」
「僕もですっ」
対面から「怜ちゃーん、練習始まるよー!」と呼びかけられて彼は逃げるように走り去ってしまった。
彼らの元へ向かう彼の背中を目で追いながら、願う。
彼もみんなと同じように悲しみと苦悩、喜びと感動を分かちあえるようにと。