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□A to ...
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「うーん」「あー」「あーる?える?えっと…」
教科書とノートを広げて呻き声を上げる伊紅の姿は実に滑稽。

「何やってんだ?伊紅」
「あー、凛ちゃん、りんりん、救世主さまー!!!!!!」
「はぁ?」

ロードワークから戻った俺の顔を見るなり泣きついてくる伊紅。
唐突すぎて意味が分かんねえ。

「凛ちゃん英語喋れるでしょ」
「あぁ、そりゃ…」
「じゃぁね"R"と"L"の発音教えて欲しいのっ。この記号ぜんぜんわかんない」

正直、面倒くさいと思った。先にシャワーを浴びたい。
けど、可愛い顔して泣きつかれたら無碍に突き放すわけ何もいかず、結局隣に座って教えてやる。

「右がRight、光がlight」
「えっ、どっちも一緒に聞こえる、分かんない」

コイツは真性の馬鹿か。

「いいか俺の真似して言え」
「うん」
真剣な顔して頷くと、俺の後を追いリピートする。

「Right」
「ライト」
「light」
「ライト」

どっちもカタカナで言ってるようにしか聞こえねえ。

「あのな、発音教えてやるから意識してやれ」
「うん」
この学ぼうとする姿勢はいいんだがな。

「"R"の時は舌先を丸めて口の中のどこにも触れないようにする。"アール"やってみろ」
「アール」
手本を見せたら意外とすんなりできた。
「できてんじゃん」
褒められると嬉しそうな顔して笑う伊紅を見ていると、子犬が尻尾ふって喜んでいるように見えるから面白い。

「じゃぁ、次"L"な。「エ」と言った後に舌を上歯茎にくっつける。それを一音節で発音するんだ 」
「へっ?上歯茎?どういうこと??」
伊紅の頭の上に"?"がいくつも浮かんでいるのが目に見えるよう。
これ以上に分かりやすい言い方はないと思うんだが…。

「口開けろ伊紅」
「え?」
「いいから口開けろ」
俺の言うとおりに口を開ける伊紅。間抜けな顔って言ったら怒るだろうな。

「舌を上歯茎にくっつけるってのは…」
口で言って分からないなら行動で示してやらないと分からないだろう。
俺は伊紅の口の中に舌を差し入れた。
驚いたようで伊紅は目を見開く。

舌先で伊紅の舌を裏側から上げるように促し、上歯茎の裏側へ押し付けた。

「…言ってる意味分かっただろ」

呆気にとられた伊紅は放心状態。

「…あっ、うん、凛の舌気持ちいい」
「バッカ、お前、そんなこと聞いてんじゃねぇよ。発音だよ、"L"の発音っ!!」

こいつはどういうつもりでこんなこと言うんだ。
やった俺の方が恥ずかしくなってしまった。


「ねぇ凛ちゃん、もっかい教えて」
つぶらな瞳で物欲しそうにねだる伊紅。
こいつには敵わない。

「何を教えて欲しいんだ」
柔らかいカーペットに組み敷かれた伊紅は俺を見上げて俺を煽る。
「Aから順番に…」
そして可愛らしい声で俺を挑発する。

「伊紅分かって言ってんの?」
「へぇ?」
首を傾げて分からないといった素振りを見せる。


「問Aから順番に教えて…ね、」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


本気で俺の意図が伝わっていなかった。
とんだ俺の勘違い。


「え、何?どうしたの凛ちゃん??」

「バッカ、何でもねぇよっ!!それよりどこが分かんねーんだよっ」

「何で急に怒るのー」

ったく、恥ずかしいんだよ。


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