薄桜鬼|series
□晴れ姿、惚れ姿、艶姿
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三月三日。
あられをぼりぼり貪る私は、新撰組の紅一点なはず。
けれど、だれも女として扱ってくれるはずもなく…まぁ、女として扱われたらここにいる意味がないからそれでいいんだけど。
でもやっぱり寂しい。こういう女の子の為の日なんかは。
「郁、入るぞ」
「あっ、はっ、はい」
部屋の障子越しに一君の声がして、慌ててガサガサと和紙をくるんであられを後ろに隠した。
さすがに恋人にこんな醜態曝け出すのも…ねぇ…
なんて思うのもつかの間。一君はお構いなしに障子を開けた。
「郁、日暮れ頃角屋へ行け」
「え、急に何?そういう偵察?」
「いいから黙って言う事を聞け」
藪から棒にというか、ぶっきら棒というか、中身の見えない用件だけ告げた一君はピシャっと障子を閉めると何処へ行ってしまった。
何、あれ、あの素っ気ない態度。
そんなに急ぎなわけ?
訳わかんない。
結局、事情も聞かされぬまま角屋へ赴くと君菊さんが「話は聞いているから」と私に絢爛豪華な着物を着せてくれた。
「なんだ、長州の偵察なわけね…なら、そう言えばいいのに一君」
そう内心呟く。
支度を終えた私は君菊さんに案内された部屋で待機。
どこの誰がお相手なんだろうと思うと、何か悔しい。
一君は私がどこの誰とも分らないような奴に抱かれても平気なんだね…。
任務の為ならそういうことも止むを得ないかもしれないけど、やっぱり一君以外は嫌だ。
なのに、一君ったらそうなることも分っていながら、私に「角屋へ行け」だなんて。
不満と不安が湧きあがり情緒不安定に陥っているところに、軽い襖の滑る音がした。
「へっ!?」
どんな男かと思いきや、入ってきたのは何を隠そう斎藤一その人。
「間違えてない?こういう場合、一君は別室で待機じゃない?」
「間違えていない。これでいい」
そう言って一君は遊女の形をした私の隣に腰を落とした。
「何で?どういうこと?意味分んないんだけど」
一君のムスッとした顔を覗きこみながら問い詰めると、何だか目を逸らして言い辛そうに重い口を開いた。
「その…何だ…今日のこれは…俺からの…俺からの」
「俺からの何?」
酒も入っていないのに一君の顔が徐々に赤みを帯びていく。
「だから、俺からの…ささやか………だ」
後半は口籠って何を言っているのやら。「何て!?」と聞き返すと一君にしては珍しく声を張り上げた。
「ささやかな贈り物と言っているんだ!!」
「はぁ?」
照れて顔を真っ赤にしてまで伝えた言葉なのに、虚しくも私にはその意味が伝わらない。
「今日は三月三日だろう」
その言葉にさっきまで眉間に皺を寄せて情緒不安になっていた私がどこかへすっ飛んで行った。
思わず私まで顔が赤くなる。
「俺に出来ることと言えばこれくらいしか…女の格好と言っても遊女だしな…」
「そんなことないよ!!すっごく嬉しい、ありがとー!!」
一君の心遣いが嬉しくて、思わず私は一君に抱きついた。
「おい、離れろ!!」
照れ屋なのか、奥手なのか、あまり免疫がないのか、一君は恥ずかしそうに私を引きはがそうとするけど、絶対に離れない。
「いやー。離れないもん」
だって、屯所じゃこんなことできないんだから。
「違う。郁、その…俺の、腕に…その…胸を、くっつけるな…見えそうだ…」
「ここに来てそれはないんじゃない…私、一君だからこういう事するんだよ」
少し目を潤ませて一君を見つめると、一君たらすっごく動揺してる。年上にこんなこと言うのも失礼なんだろうけど、とてもこの上なく可愛い。
「ありがとう一君。大好き」