薄桜鬼|series

□鬼は外?
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立春とはいえまだまだ寒さ厳しい冬に変わりはなかった。

庭の掃き掃除も風が冷たく、手も悴む。

一刻も早く庭掃除を終わらせたい郁に背後から声がかかった。

「郁ちゃん」

振り返れば部屋から顔を出し、手招きをする総司の姿。

「どうしたんですか?」

少し距離があり郁の声も大きくなった。


「来れば分るよ、おいで!」

「庭掃除してるんですけど」

「急ぎの用件だから先にしてほしいんだ!」

そう言われると仕方なく、郁は箒を置いて総司の部屋に赴いた。


「何ですか?」

「これ、しようと思って」

総司の手には升に山盛りの豆があった。

「豆まきですか?」

「うん。今日は節分だから」

「夜にすれば?」

「今晩は巡察だから僕はできないんだ。だから今のうちにやっておこうと思ってね」

「どうせなら他に誰か呼びませんか?」

「二人でやりたいから嫌」

「また、我儘な…」

「駄目?」

「いいですけど…」

「じゃぁ郁ちゃんが鬼だね」

「はぁ?」

「だって鬼でしょ」

「えぇ、それって酷くないですか?」

意味深に笑う総司は、升の豆を掴むと郁に放り投げた。

「鬼は外って言いたいところだけど、部屋からは出ないでね。土方さんに見つかると厄介だから」

投げられた豆は郁を掠めてぱらぱらと畳に散らばった。

「ちょっと!沖田さん!!」

郁は総司の持つ升から豆を握ると、勝手ばかりを言う総司の胸元にぶつけた。

「痛っ!」

肌蹴た胸元に直に豆が数粒当たったところで然程痛くもないのに、総司はうずくまり大袈裟に痛がる。

「ご、ごめんなさい!!」

慌てて駆け寄る郁に総司の口元が歪む。
「大丈夫だけど、着物の中に豆が入っちゃったから、郁ちゃん取ってよ」

「えっ!?」

「悪いと思ったから謝ったんでしょ。だったら取って」

男の肌に触れることが恥ずかしく、俯き顔を真っ赤にしながら郁は総司の衿に手を伸ばした。その手は小刻みに震えているように見えた。

そんな姿を見ていると総司の悪戯心が芽生えてしまう。

総司は微かに身体を動かすと郁の手が総司の腹の辺りに触れてしまった。

予想以上に冷たい手の感触に総司の身体が強張った。

一方、郁は「きゃっ」と小さな悲鳴を上げて腕を引き戻した。


「そんなに冷えてたんだね」
総司は郁の両手を取り口元に寄せると息を吹きかけた。

「沖田さん…」

狼狽する郁を余所に総司の唇が郁の手の甲に触れる。不意ではなく故意に口づけを与えた。

郁の冷え切った指先一本一本に唇の感触を残し、時には舌を出して舐めると、郁は困惑に似た表情をしながら頬を染め身体を強張らせている。

「可愛い」

その郁の姿を上目で捉えると、総司は勢いよく郁の腕を引っ張り身体を引き寄せた。

「お、沖田さん」

「少しはあったかくなった?」

郁はこくりと頷くだけの返事をした。

総司に抱きしめられて郁は温かいというよりか、顔から湯気が出そうなほど上気して熱く感じていた。


「あのぉ、私、まだ庭掃除が…まだ…」

「もう少し僕の相手してほしんだけど………駄目かな」

少し困ったような笑顔を見せられた。
この状況を打破しようとしても郁は総司のこの表情に敵うはずなく、あっけなく郁は総司の下に組み敷かれてしまった。

「僕も温まりたいな」

熱をもった視線でそう呟くと総司は郁に貪るような口づけを与える。

「んっ、」

歯列を割って口内を蹂躙する総司の舌に翻弄され、郁の体温は上昇する一方。微かに目を開けてみれば総司の肌も少し赤らんでいた。


「沖田さん…土方さんにバレないですか?」

「もし見つかったら豆投げちゃえば。バレない自信はあるけどね」

「ふふふ。何ですかそれ」

根拠のない自信に信憑性は欠けるが、それでも総司との満たされた関係を止めることのできない郁だった。



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